約 1,746,303 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9240.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十二話「吸血寒村」 こうもり怪獣バットン 登場 戦争が生じる莫大なマイナスエネルギーによって途轍もなく強大になってしまったヤプール人を 倒す代償として生死の境をさ迷い、長い時間眠り続けていたウルトラマンゼロ。しかしポール星人の たくらみを破るために勇気を掲げた才人に呼応するように、遂に眠りから覚めて復活した。 だが彼が眠っていた間にもハルケギニアには怪獣が出現していた。ゼロ覚醒までの間に、 その魔の手から人々を護っていたのは、誰であろうウルティメイトフォースゼロの仲間三人である。 今回はその三人の今日までの活躍の一部を、以前のように紹介することとしよう。 「お姉さまお姉さま、何の本を読んでるの?」 青い鱗の風韻竜、シルフィードが背の上の主人、タバサを呼んだ。シルフィードは現在、 上空三千メイルを飛びながらガリア首都リュティスの南東五百リーグの場所を目指していた。 タバサはシルフィードの質問に、無言で本の表紙を見せることで答えた。 「『ハルケギニアの多種多様な吸血鬼について』ですって? 今度の相手を調べてるのね」 と言ったシルフィードはぶるぶる震えた。 「お姉さま、吸血鬼は危険な相手ですわ! 太陽の光に弱い点を除けば、人間と見分けがつかないし、 先住の魔法は使うし! きゅいきゅい! おまけに血を吸った人間を一人、手足のように操ることだって できるんだから!」 シルフィードがそう語ると、タバサは目を細めてじっと本を見つめた。 今回のタバサの任務は、サビエラ村という山間の片田舎の村に潜む吸血鬼の退治なのであった。 二ヶ月ほど前に十二歳の少女が全身の血を吸い尽くされて死亡していたのを皮切りに事件が発生し、 犠牲者は既に九人にも及んでいるという。そして九人の被害者の中には、王室から派遣された ガリアの正騎士まで含まれていた。トライアングルクラスの火の使い手という実力者だったが、 吸血鬼には力及ばなかったようだ。 そんな狡猾な妖魔が相手なので、タバサはいつも以上に慎重に事を進めるつもりだった。 「……ところでお姉さま、吸血鬼がいるんだから、吸血怪獣なんてのもいるのかしら?」 不意に、シルフィードがそんなことをつぶやいた 「吸血怪獣がほんとにいたら、それはもう大変なことなのね。何せあんなに身体が大きいのだもの。 何人の血を吸ったところでお腹が満たされず、次々に人を襲うのね! ああ恐ろしい! あッ、でも 吸血怪獣ってちょっとおかしいのね。あの大きさなら、わざわざ血を吸うんじゃなくて丸ごとぱっくり 食べる方がずっとずっと効率的だからね! きゅいきゅい!」 無駄口を並べるシルフィードの頭をタバサが杖で小突き、先を急ぐように促すのだった。 サビエラ村から少し離れた場所に着陸するタバサとシルフィード。するとそこに近づいてくる者が。 「見知った風竜が飛んできたと思えば、やはりあなたでしたか、タバサさん。シルフィードさん。 エギンハイム村以来ですね」 「あなたは……」 それはミラーナイトの人間体、ミラーだった。どうしてここにいるのか、とタバサが聞く前に、 ミラーが口を開く。 「タバサさんはサビエラ村の吸血鬼の事件を解決するためにいらしたのでしょう? 実は私も、 あの村を中心に夜毎に異様な気配を感じるので、調査に赴くところだったのです」 「異様な気配?」 「正体まではまだ分かりません。しかし、強力な負の波動を感じました。これはただごとではありません。 またヤプールが関わっているのでは……と思い、正体を確かめることとしたのです」 ミラーの台詞を受けて、タバサは一層警戒心を深めた。ただの吸血鬼だけでも厄介なのに、 怪獣や侵略者までが絡んでいるのなら、自分たちの力だけで事件解決を図るのは大変苦しいものとなる。 そこで協力を申し出たら、ミラーは快く引き受けてくれた。 「ありがとう。早速、頼みがある」 「何でしょう。私に出来ることでしたら、何なりと」 タバサの頼みというのは、ミラーにマントと自分の杖を持たせて、自らの代わりに王宮から 派遣されてきた騎士を演じてもらうというものだった。自分は騎士の従者役だ。 こうするのは、村に潜んでいるだろう吸血鬼の目を欺き、油断させるためであった。マントと杖を 持たない者は普通平民なので、敵の虚を突くことが出来るはず。当然杖を側に置かないのには危険が伴うが…… ミラーは超人なので、その危険を減らすことも出来よう。 当初はシルフィードを人間に変化させる予定だったが、こうした方が断然良い。何故なら、 シルフィードでは騎士のふりをさせるのにいささか不安があったから……なんて言ったら当人が へそを曲げるだろうから、賢明なタバサは胸の内にしまっておく。 とにもかくにも、タバサ一行はそれぞれの役どころを決定してからサビエラ村へと足を踏み入れていった。 サビエラ村は人口三百五十人ほどの寒村。吸血鬼という魔の牙に脅かされている最中だからか、 全体の雰囲気が非常に重く暗い。 ミラーの美貌から、女性たちは頬を赤らめたりため息を漏らしたりという反応を見せるが、 男性からはかなり批判的な目を向けられた。僻みもあるだろうが、既に王宮の騎士が返り討ちに 遭っているので、本当に吸血鬼を倒せるのか疑念を持っているのだろう。 ともかく、村を回ってある程度吸血鬼に関する情報を得られた。 村人たちは、吸血鬼が三ヵ月ほど前にこの村に引っ越してきた占い師の一家であると疑ってかかっていた。 特に占い師のお婆さんは、占いもろくにせずに、病気だからと日中も家に閉じこもっているのだという。 「……どう思う?」 従者を演じるタバサが、ミラーに意見を求める。 「あからさまに怪しすぎますね。正体を隠すつもりならば、もっと上手くやるはずでしょう。 表に出られないお婆さんがいるのをいいことに、目そらしに利用している可能性が高いです。 ……とは言うものの、実際にそのお婆さんにお会いしないことには結論は出せませんね」 そういうことで、一行は村長にその占い師一家の家の場所を教えてもらった。 その村長の邸宅では、五歳ぐらいの、美しい金髪の少女がこちらの様子を物陰から窺っていた。 「お可愛い女の子ですね。お孫さんですか?」 ミラーが村長に尋ねると、村長は否定した。 「いえ、あの子、エルザはわしが預かっておりますが、わしの本当の家族ではないのですじゃ。 一年ほど前、寺院の前に捨てられておったのです。聞けば両親はメイジに殺されて、ここまで 逃げてきたとのことでの。おそらく行商の旅人が、なんらかの理由で無礼討ちにされたか、 メイジの盗賊に襲われたか……。まったく森は、妖魔以外の危険もいっぱいですじゃ。早くに子を なくし、つれあいも死んでしまったわしには、家族がおらんでな、引き取って育てることにしたんですじゃ」 「そうでしたか……。すみません、お話しづらいことを聞きました」 「いえ、構わんで下さい」 それから村長は遠い目になった。 「わしはあの子の、笑った顔を見たことがないのですじゃ。身体も弱くて……、あまり外で 遊ぶこともさせられん……。一度でいいから、あの子の笑顔を見たいもんじゃのう……。 それなのに村では吸血鬼騒ぎ。早いところ、解決して欲しいもんじゃ……」 かわいそうな境遇の女の子だが、タバサはミラーの脇腹を軽く小突いた。ここまで吸血鬼が 血を吸ったことで意のままに操る『屍人鬼(グール)』を探るために、吸血痕を求めて村人たちの 身体を確かめていたが、エルザまでも疑うというのか。 だがミラーは許可しなかった。 「いくら何でも、あの子は手足にするには小さすぎますよ。グールは、身体能力は人間の時から 変化しないのでしょう? 幼子では、いざという時に頼りになりませんからね。グールではなく、 吸血鬼ならば可能性は大いにありますが……その判断は、占い師の一家を確認してからにしましょう」 そう言って村はずれのあばら家に行くと、そこでは軽い騒動が起きていた。十数人の村人たちが、 鍬や棒、火の点いた松明を手にあばら家を取り囲んでいるのだ。 「どうやら、血気に逸った方々が早急な判断を下したみたいですね」 ミラーの言う通り、村人たちは口々にわめく。 「出てこい! 吸血鬼!」 するとあばら家の中から年のころ四十前ほどの、屈強な大男が出てきて、集まった村人たちに大声で怒鳴った。 「誰が吸血鬼だ! 失礼なことを言うんじゃねえ!」 「アレキサンドル! お前たちが一番怪しいんだよ! よそ者が! ほら吸血鬼を出せ!」 「吸血鬼なんかいねえよ!」 「いるだろうが! 昼だっつうのにベッドから出てこねえババアが!」 「おっかぁを捕まえて吸血鬼とはどういうこった! 病気で寝てるだけだ! 言っただろう?」 額に青筋を浮かべて男がつぶやく。 「いいからここまで連れてこい! ババアが違うなら、妹がそうじゃねえのか!? 肌が日に 弱いとか抜かしてたが、家に二人も閉じこもってる奴がいるなんておかしすぎだぜ!」 「なんだと!? 妹まで疑うってのか! いい加減にしやがれ!」 もみ合いになりそうになったところで、ミラーが仲裁に入った。 「まぁまぁ、落ち着いて下さい。この家の検分は私たちがしますから。こうやって疑心暗鬼に陥って、 村の中で諍いを起こすことこそ、吸血鬼の思惑かもしれませんよ」 「あんたはお城からいらっしゃった騎士さま……」 ミラーの説得と、女性のような美貌からは想像もつかないような迫力で村人たちは大人しくなった。 それから一行はあばら家の中に入り、アレキサンドルという大男の家族を調べた。 中にいたのは、粗末なベッドに横たわる、枯れ木のように痩せこけた老婆と、その世話をしていた 病的なまでに肌の白い、アレキサンドルの妹という美女。確かに、どちらも吸血鬼らしいといえば 吸血鬼らしい外見。 しかしこの一家にも、吸血鬼と断じられるような決定打はなかった。吸血鬼は通常時には 人間と見分けがつかないし、グールの決め手となる傷痕も、田舎だけあり、虫や蛭に刺された それらしい痕が何人もの村人にあるのだ。 とにかく、昼の内では誰が吸血鬼かなど分かりようがない。そこで吸血鬼の活動時間、すなわち夜を待つ。 村長の屋敷に、村に残っている若い娘たちを集めてもらい、自分たちは外で見張る。これで吸血鬼が 襲ってきても、すぐに迎撃できることが可能だ。 そして夜になると、すぐに吸血鬼の襲撃があった。しかし狙われたのは、集めた娘ではなかった。 「……きぃやあああああああああああ」 一階のエルザの部屋からか細い悲鳴が聞こえ、ミラーとタバサはすぐにそちらへ走った。 割られた窓から部屋の中へ乗り込むと、片隅でガタガタと震えるエルザの姿があった。 そこに襲いかかろうとしているのは、あばら家の美女。犬歯が異常に伸びて、牙と化している。 「ホホホホホホ!」 美女はミラーたちの顔を確かめると、高笑いを上げて扉から逃げ出していった。 「待ちなさい!」 それを追い掛けていくミラー。タバサは怯えるエルザを落ち着かせる。 ミラーならば、吸血鬼といえども物の数ではあるまい。鏡の力を以てして、簡単に返り討ちに してくれるはずだ。……相手が『ハルケギニアの吸血鬼』ならば。 屋敷から外へ逃げ出した吸血鬼を追いかけていくミラー。しかし吸血鬼は村はずれまで 来たところで停止し、ミラーへ振り返る。 「ホホホホホホ!」 再び高笑いすると、全身から怪光を発してみるみる巨大化、変身していく! 「ギャア――――! ギャア――――!」 吸血鬼はあっという間に異様に長い牙を口からはみ出させた、コウモリ型の怪獣へと変貌した! 吸血鬼の正体はこうもり怪獣バットンであった! 「はッ!」 それを目の当たりにしたミラーは一瞬驚くものの、すぐに意識を切り換えて近くの水たまりを見やった。 すかさずそこへ飛び込み、光の反射をくぐり抜けて変身! 『とぁッ!』 巨大化したミラーナイトがバットンの前に降り立った。二つの月光が雲の切れ間から寒村を 照らし出す中で、鏡の騎士とこうもりの怪物の決闘が開始される。 「ギャア――――! ギャア――――!」 先に動いたのはバットンだ。両腕に生えた皮翼をバサバサと羽ばたかせることで突風を生み出す。 『くッ!』 風の勢いはすさまじく、ミラーナイトはまっすぐ立っていることが出来ずによろめいた。 その隙にバットンが空へ飛び上がり、ミラーナイトへ向けて滑空していく。 危ない、ミラーナイト! バットンの羽には刃が仕込まれている! 『ふッ!』 「ギャア――――! ギャア――――!」 殺人暗器が迫る中、ミラーナイトは一瞬にして体勢を立て直して前方に転がった。それでバットンの 斬撃をかわすことは出来たが、バットンは空を自在に飛び回って執拗にミラーナイトを追い回す。 刃で切り裂かれたら、戦況は一気にミラーナイトの不利になるだろう。 『はぁッ!』 だが黙って逃げ続けるだけのミラーナイトではない。バットンの何度目かの攻撃を素早く 避けたところで、振り向きざまにミラーナイフを放つ。ミラーナイフは見事バットンの皮膜を引き裂いた。 「ギャア――――! ギャア――――!」 羽をやられたことで飛んでいられなくなったバットンは着地するが、細見の肉体は地上でも 俊敏な身のこなしを実現させていた。即座に放たれた飛び蹴りをミラーナイトはどうにか回避する。 「ギャア――――!」 だがそこを狙って、バットンの長い耳から針状の光線が発射された! 『うぅッ!?』 それをもろに食らったミラーナイトは仰向けに転倒した。それを逃さず、バットンが覆い被さってきた。 「ギャア――――! ギャア――――!」 『くぅッ!』 自慢の長い牙をミラーナイトの首筋に突き刺そうと振り下ろすバットン。ミラーナイトは 首を傾けることでギリギリかわした。 バットンに噛みつかれると、その魔力によって噛まれた相手も吸血鬼になってしまう。 ミラーナイト、危うし! 『はぁぁッ!』 しかしミラーナイトはすぐにバットンの腹部を蹴り上げることで、自身から引き離した。 どうにか一番の危機は脱することが出来た。 「ギャア――――! ギャア――――!」 とはいえこれくらいであきらめるバットンではない。己の頭上を跳び越えて背後に着地した ミラーナイトを追って、そちらへ耳からの光線を再度撃ち込む。 だが光線はミラーナイトに当たるとそのままはね返ってきた! ミラーナイトの十八番、 鏡の虚像を利用した分身戦法だったのだ。 「ギャア――――!?」 自分の攻撃をそのまま食らったバットンは大きくひるむ。攻撃の絶好のチャンスだが、 ミラーナイトはこのままバットンにとどめを刺すことはしなかった。 バットンは吸血した相手を吸血鬼に変える能力を持つのは先ほど語った通りだが、それはバットンを ただ倒したとしても治癒しない。バットンの血液から作る血清が必要となるのだ。そこでミラーナイトは、 鏡の細工による注射器を作り出した。繊細な業師ミラーナイトらしい、巧みな芸術であった。 それから一直線にバットンに駆け寄り、その首筋に注射器の針を突き刺す! 「ギャア――――! ギャア――――!」 『レディなら大人しくしなさい!』 もがくバットンを抑えつけて採血。これで必要な分の血液を採ることが出来た。 だがバットンに突き飛ばされて、注射器を地面の上に落としてしまう。 「ギャア――――! ギャア――――!」 自身の血が詰まった注射器を奪い取ろうと走るバットンだが、ミラーナイトが後ろから掴んで足止めする。 『させませんよ!』 「ギャア――――! ギャア――――!」 激しく抵抗するバットンだが、ミラーナイトは足を引っ掛けて転倒させた。バットンは注射器に 手を伸ばすものの、指はわずかに届かなかった。 『やぁッ!』 そしてミラーナイトはバットンの両脚を掴み、後方へ投げ飛ばす! 大きく弧を描いたバットンが ふらふらと起き上がると、そこにとどめのシルバークロス! 『シルバークロス!』 「ギャア――――!!」 バットンは十字に切断されて爆散。破片も粉々になって消滅していった。 『ふぅ、後は怪獣の血液から血清を作るだけですか……』 ひと息ついたミラーナイトは注射器を拾い上げ、それをじっと見つめた。 村人たちから吸血鬼と疑われていた占い師の一家だったが、本当にその中に吸血鬼が混ざっていたとは。 恐らく、女に化けたバットンがアレキサンドルとその母を操り、家族に扮してサビエラ村に潜入していたのだ。 だがバットンは今こうして倒した。これでサビエラ村の吸血鬼事件は終わりを迎える……。 『……本当に、これで終わりなのでしょうか……』 そのはずなのだが、どうしてかミラーナイトは気分が晴れなかった。何か、もやもやとしたものが残っている。 困惑する彼を、二つの月光は変わらず照らし続けていた。 サビエラ村の人々は戦いの騒動を聞きつけて目を覚まし、怪獣の姿を見上げて恐れおののいていた。 しかしミラーナイトが退治したことで、今ではすっかりと落ち着きを取り戻していた。 「ふぅ、こんな村に怪獣が出てきた時はどうなるもんかと思った」 「しかし、吸血鬼の正体がまさか怪獣だったなんてなぁ」 「けど、それもやっつけられた。この村は救われたんだな!」 村人たちはすっかりと安堵して、再び眠りに就こうとそれぞれの家に戻っていった。彼らはこれから、 枕を高くして眠るのであろう。 そんな中で、ミラーはこっそりと村長の屋敷に戻ってきて、タバサとエルザの元まで帰ってきた。 「タバサさん、エルザちゃんはご無事でしたか?」 とミラーが尋ねるが、エルザはミラーの顔を見やるとひ! とうめいて毛布を被ってしまった。 彼女はミラーをメイジだと思ったままなのだ。 「ああ、メイジが怖いのでしたね。これは失礼をしました」 ミラーがエルザの視界から離れて、タバサがエルザをまた落ち着かせる。精神が安定したエルザは、 タバサにこんなことを聞いた。 「おねえちゃん、まだ子供なのに騎士さまのおともしてるんでしょ? えらいなあ。おねえちゃんの パパとママはなにをしているの?」 しばらくの沈黙があって、タバサは答えた。 「パパはいない。ママはいる」 「そう。わたしのパパとママはね、メイジにころされたの。わたしが見てる前で。魔法で。 まるで虫けらみたいに……。だからわたしメイジはきらい。おねえちゃんのパパはどうして 死んじゃったの?」 タバサはちょっと目をつむり……、小さくつぶやいた。 「殺された」 「魔法で?」 「魔法じゃない」 「じゃあママはどうしてるの?」 「寝たっきり」 そう答えてからじっと黙るタバサを見て、エルザがぽつりとつぶやいた。 「おねえちゃん、人形みたい」 「どうして?」 「あんまりしゃべらないし……、笑ったりしないし。ぜんぜん表情がかわらないもの」 タバサは無邪気なエルザの目を見つめた。エルザの瞳に、自分の顔がうつっている。 その顔はいかなる感情をも浮かべていない。 「あは、ほんとにお人形みたい」 タバサの胸にエルザは顔をうずめ……、安心したように目をつむって、寝息をたて始めた。 その後村長にことのあらましを説明したタバサは夜通しエルザを見守ったあと、やっと眠りについた。 ……タバサが眠りについてから、エルザはぱっちりと目を覚ました。そうしてタバサの寝顔を じぃっと見つめた。 その瞳に映っているものは……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3316.html
前ページゼロの使い魔・ブルー編 アルビオン空軍、その工廠の街、ロサイス。 所々にそびえ立つ煙突からは煙が立ち上っている。 そこら中に積み重ねられた資材と、それを運んだり、 もしくはそれを組み立てたりする者達、 そしてその者達によって作られた物で、今此処は満たされていた。 そのうち、最も大きい物を、資材でも働き手でも無い者が見上げながら、感嘆の声を上げる。 「何とも雄大な船ではないか!この船の主は、自分こそが空の主でもあるような、 そう言う感覚を与えてくれる、そう言う船とは思えないかね?艤装主任」 「我が身には余りある光栄ですな」 どう聞いてもそうは思ってないような、棒読みと言っても良い口調で応えたのは、 まさに、この船の主となるべき、この船の艤装主任、サー・ヘンリ・ボーウッドであった。 先の内戦――彼らに言わせれば革命戦争だが。とにかく、 その戦いに於いて、彼は功を立て、この船の艤装主任、そして艦長の座を与えられた。 もっとも、彼がそれに対し、特に感慨は抱かなかったのだが。 そんな彼の様子は無視し、艦に備え付けられた大砲を大げさに手で指し示し、大きな声で言う。 「見たまえ!あの大砲を――私の、君への信頼の証として、君が乗る船に送る、新兵器だ。 錬金に長けるメイジを集めて鋳造した、長砲身の大砲だ!設計士の計算では……あー」 言葉に詰まって、少し時間が流れる。 クロムウェルは、その空気を気まずいと思ったのか、側に立っている男にチラと視線を送る。 男は気のない風で軽く応える。 「従来の46パーセント、射程が向上している。アルビオンのそれに比べると、約1.37倍、 トリステインに比べれば1.54倍の射程を確保できていることになる」 「そう、そうだったな、ドクター」 ドクターと呼ばれたその男は、余り見ない風貌の男だった。 いや、服装自体はそうおかしい物ではないのだが、黒髪に、黒目。 そして、左目を眼帯で覆っている。 マントをしてはいたが、メイジには見えない。 訝しがるような視線に気付いたのか、クロムウェルが言う。 「彼は東方……ロバ・アル・カリイエから来たのだ。 彼の地には、我々にはない技術が、魔法によらぬ幾つもの技術があるのだそうだ…… 君も付き合っておいて損はない思う。良かったらこの機会にどうかね?」 「そうですね」 全くもってその気のない返事であったが、それに気付いているのか居ないのか、 どちらにしろ反応はせずにクロムウェルは巨船を見上げる。 ボーウッドも、それに釣られて船を見上げる。 彼のやるせない気持ちと、本来あるべき理想とのギャップから、皮肉の一つを外に出した。 「……この『ロイヤル・ソヴリン』に敵う船は、もはや何処にもないでしょうね」 「ははは、それはそうだが、この船は『ロイヤル・ソヴリン』ではない。 もはやこのハルキゲニアに『王権』は存在しないのだよ」 「……そうでしたな。しかし、今度の親善訪問……わざわざこの船で行く必要はないでしょう。 新兵器を積んだ船なぞ、示威行為と取られても仕方ありませぬぞ」 「そうか、君はまだ知らなかったな。今回の『親善訪問』については……」 その口ぶりから、ボーウッドは余り聞きたくはない類の言葉が来ると予測はした。 予測はしていたが、それを上回る、悪いことであった。 「簡単に言えば、不意打ちだ」 「……なんですと?」 「相手の号砲に合わせて、此方の船を一つ、自沈させる。 それを口実に攻め入ろうというわけだ」 当然、彼にとっては認められる様なことではなく、 感情をそのまま、とは行かないまでもかなり表に出す。 「何を考えているのですか!?そのような行為、許されぬはずがありませぬ!」 「軍事行動の一環だ」 「不可侵条約を結んだばかりですぞ! そんな事は、このアルビオンの歴史、いやハルキゲニア全ての歴史に於いてもありますまい!」 「残念だが、これは議会で既に話し合われ、決定し、私が承認した物なのだよ。 これに口を挟むのならば、政治批判と言っても良い。君は政治家かね?それともあるいは……革命家か」 そう言い、クロムウェルはボーウッドにわざとらしい、 疑っていると言わんばかりの視線を向ける。 それに対してというわけではなく、ボーウッドは一旦言葉を止めた。 彼は、彼自身をあくまでも一軍人だと思っている。 そして、軍人は政治に口出しするような物でも無いとも。それでも、彼は再び口を開いた。 「アルビオン……いや、我々は、歴史に残りますぞ。類を見ない、卑怯者として」 「そうだ、歴史に残るだろう。だがそれは、卑怯者としてではない。 当然、ハルキゲニアを統一し、聖地を取り戻した英雄としてだ。 ……それでは、頑張ってくれたまえ」 そう言って、クロムウェルは去っていく。 彼の姿が消えてから、近くで様子を見ていたらしい一人の兵士がボーウッドに駆けよってきた。 「どうかされたのですか?」 そう問われて、自分の態度を思い返し、それを恥じながら問いに答えた。 「不意打ちをする、と言うのだ。命令である以上、従わぬ訳にはいかないが…… やはり、納得は出来ん」 「……どういう事です?」 「此方の船を一つ自沈させると。 ……それをトリステインの仕業にするつもりなのだろう」 「……そう、ですか……」 そう呟くと、その兵士もまた去っていった。 ボーウッドはそれを余り気にもせず、船を見上げた。 「なんだか退屈だわ」 「……そうか?」 魔法学院では、いつも通り――つまり、冒険などは無い時間が流れていた。 ブルーが呼び出されてからというもの、 ルイズは危険や困惑が溢れるような日々を過ごしていたが、 過ぎ去ってしまうとなんだか物足りないように思っていたのだった。 ルイズの呼びかけに、ブルーは何か考え事でもしていたのか、少し間をおいてから反応した。 「平和なのは良い事だわ」 「そうだな」 「でも、なんだかこう立て続けに色々あるとね、 なんだかまたすぐに何か起こりそうな気がするじゃない」 「それは勘弁だな」 「……私もそう思うわ」 話していれば、時間は過ぎる。 その時間を歩いていれば、教室に着くわけだから、教室について、他愛もない会話は終わった。 今回はコルベールの授業である。 本来ならもうやっていてもおかしく無いはずなのだが、 フーケの件で一回すっ飛ばされて、今回が初めての授業となる。 だから、今日もなかったりした場合、結構遅れることになるのだが―― 「コルベール先生は行方不明だ」 「……はぁ?」 本来来るはずのコルベールではなく、ギトーがやってきた。 そして、教壇に立って真っ先に言った言葉がこれである。 恐らく、ルイズ達以外の生徒も同じ声を上げていたのだろうが、 タイミングが一致しすぎて逆に少数の声にしか聞こえなかった。 流石に、それ以降の反応は別々だったが。 「え、えーと、行方不明……って事は、授業はなしですか?」 「というか、何処に行ったんですか?」 「そう言えば最近見なかったな……」 「授業暫くありませんよ……?」 「どういうことよ……?」 最後の言葉はルイズの物である。 それに対する回答なり、共感などが得られないかと思ってブルーの方を向く。 彼はというと、その視線が向けられてから、 暫く立ってようやく気付いたようにルイズの方を向き、少し考えてから軽く言った。 「また何か起こったな」 「…………」 「で、どういう事なんですか?」 「おぬしで5人目というのは、良いことなのか悪いことなのか……」 あの後始まったギトーの演説を ブルーが『サイキック・プリズン』で13秒で終わらせた後、 取り敢えず最も事情を知っていそうなオスマンの所に居た。 尚、ブルーはいつの間にか姿が消えていたが、 きっといてもいなくても変わらないので放置しておいた。 使い魔とメイジは一心同体?そんな物は幻想だ。 ルイズは最近、そう思い始めていた。 「だいたい、授業が終わってからから何故20分もかかってるのかね……?」 「それほど……いえ、少々用事がありまして」 「……本来授業があるべき時間に用事があるのはともかくとして、わしもミスタ・コルベールの行方は知らん」 「そうですか……」 「暫く仕事がないからと、街まで秘薬の類を買いに行ったようなんじゃが……」 「それっきり戻らないと?」 「うむ、そうじゃ」 そこでオスマンが一息つく。 ルイズも、特に聞くべき事は思いつかないので、両者共に沈黙する。 先に口を開いたのはオスマンだった。 「所でミス・ヴァリエール」 「はい」 オスマンが口調を改めて話しかけてきたので、ルイズも姿勢を正し、それに相応しい態度で臨む。 「丁度良いのでこれを渡しておこう」 オスマンは机の片隅にあった古ぼけた本、 と言うよりかはぼろ紙の束と言った方が正しそうなものをルイズに差し出してくる。 「……これは?」 「『トリステイン王家に伝わる始祖の祈祷書』じゃ」 アクセントの位置が少々違う事の意味を理解しながら、ルイズは紙を捲ってみる。 何も書かれていない。 「何も書いてありませんが」 「……どう見ても本物ではないと思うんじゃが……それはこの際関係ない。 君にそれを渡すのはだな、トリステイン王家の伝統で、王族の結婚式の際には、 貴族から選ばれた巫女が結婚式の際にはそれを手に詔を読み上げる習わしでな。 習わしと言っても、王族とも成れば決まり事も同然じゃな」 「はあ」 「そして、アンリエッタ姫殿下は、その巫女としてそなたを指名したのじゃ」 「……わ、私ですか?」 「そうじゃよ。して、巫女はこの祈祷書を式の前より肌身離さず持ち歩き、 読み上げる詔を考えることになっておる」 「私が考えるんですか?」 「まぁ、草案は宮中の者が推敲するだろうし、別に他人の意見を聞いちゃ成らんわけでもあるまい。 それに、一生に一度あるかないかの大役じゃ、まさか断りはしまい?」 「……はい、謹んで拝命いたします」 「ふむ、引き受けてくれるのなら心配はないの。 ……まぁ、用事は以上じゃ」 「それでは、失礼――」 「ああ、待った待った。済まないが、 君と一緒にアルビオンに行った3人に儂の所に来るように言ってくれんかな?」 「解りました……けど、何でです?」 そう言われると、オスマンは一旦硬直し、数秒考え込んでから、 重くなった口からうめく様に言った。 「…………コルベール先生を捜して貰おうかと思ってのう……」 「……そうですか」 祈祷書を携えて、3人に言伝を伝えてから、ルイズは部屋に戻る。 タバサとキュルケは部屋にいたのですぐに解ったが、ギーシュは何処にいるか解らず、 当たりを付けて女子の集まるところを探しても見あたらないので、諦めて帰ろうとした辺りでようやく会えた。 ちなみに、このルイズの行動が原因で、ギーシュが何者かに毒を盛られたらしいが、それはどうでも良いことだ。 部屋に戻った頃には、結構な時間をかけたため、空が黄昏れてきていた。 薄くなった光を頼りに、机の上に祈祷書を広げて、読もうとしてみる。 が、何も書かれていない。 「……どうしろってのよ」 一応、ページを捲ってみるが、そこにも何も書かれては居ない。 ため息をついて、椅子に寄りかかる。 「確かに名誉なことではあるけど……何も思いつかないわ」 もしかしたらアイデアか何かあるかも知れないと思い、 椅子に座ったまま身体の向きを変えて後ろを見る。 「ねえ、ブルー……」 振り返ったが、誰もいない。ルイズは首をかしげる。 いつも、特に用事はないはずなので、部屋にいるはずなのだが……。 「どうしたのかしら……」 取り敢えずそのことは一時忘れて、詔を考える作業にもどった。 とはいえ、とても順調とは行かず、そのまま夜になった。 人々が寝静まる時間になっても、彼女の使い魔は帰ってこなかった。 前ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9346.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百九話「GOODLESS」 宇宙商人マーキンド星人 登場 老若男女様々な人間がエネルギーを取り囲む形になってテーブルに突っ伏している異様な光景。 シルフィードはどういうことかタマルに問いかけた。 「こ、これは……!? 何をやってるのね……!?」 「見ての通りですよ。何もしてません」 「何もしてないって……」 確かに言われた通り、座っている人たちは何もしていないが……。眠ったようにしながら 時を過ごしている。 「座ってるだけです。楽でしょぉう? 故に貴族の方々に大人気なんですよぉ」 「……あの光ってるのは何」 今度はタバサが質問した。それにマーキンド星人=タマルは、何でもないことかのように答える。 「さっきの装置を動かす、重要なエネルギーを採取してるんですね」 「それを、あの人たちから……」 「ああ大丈夫ですよ、全然痛くなんてないですから。何なら、聞いてみて下さいな。ほら、 ちょうど終えられた方が」 座っている者たちの内、若い男性の貴族が席を立ってこちらの出入り口に近づいてきた。 ぼんやりとした表情で、足取りがふらふらとしたまま。 「ああ、タマル……」 「頑張られましたねぇ、卿。もう大分長いこと働かれてたようですが」 「うむ、ざっと百時間といったところかな……」 「それはすごい!」 「もう遊んで暮らす分には十分かな。いや、賭博で更に増やせば、もっと贅沢な暮らしが出来る。 楽しみだぁ、ハハハ……」 男はタバサとシルフィードの間を通り抜けようとしたが……その瞬間に崩れ落ちて、床に倒れ伏した。 「だ、大丈夫ですか!?」 シルフィードたちは咄嗟にしゃがみ込んで、男の安否を確認する。脈と息を確かめたタバサが、 普段以上に小さな声でつぶやいた。 「死んでる……」 息を呑むシルフィード。一方、タマルは微塵も慌てないで言い放った。 「あ~あ、時々いるんですよねぇ、こういう無茶する方。だから遊ぶ時間は残しておくように、 念を押したのに」 「……この人に何をしたの?」 鋭い視線をタマルに向けるタバサ。だがタマルはケロリとしている。 「私は何もしてはいませんよぉ。彼が働きすぎただけです」 「……」 「こちらの仕事は、賃金は高くて楽なのですが、寿命が縮むんですよ」 「要するに、みんなを騙して、命を吸い取ってるのね!?」 驚愕と、怒りを混ぜて叫ぶシルフィード。あのエネルギーは、ここの人間たちの生命力なのだ。 目を吊り上げるタバサたちに、タマルは平手を向けて自己弁護した。 「いえいえ、それは誤解です。私は何も騙してなんかいませんとも。ちゃんと事前にリスクは 説明しましたから。あなた方にも、これから申すところだったんですよ。本当ですよ」 「ふざけないで! こんなの、放っておけないわ!」 シルフィードとタバサは左右に分かれ、テーブルを囲んでいる人々の頭に嵌まっている 生命力吸引装置を取り外していく。 「起きて! 起きてなのね!」 「ちょっと、何するんですか!」 「うるさいのねッ!」 シルフィードは風韻竜の力の一部を解放して、タマルの首根っこを掴んで空中に吊り上げた。 「うわッ! お嬢さん、すごい力ですねぇ~……」 「……改めて聞く。さっきの装置は、何をするためのものなの」 タバサの詰問。タマルも観念したように肩をすくめて、回答し出した。 「簡単に言えば、攻撃兵器です。稼働させれば、どんな遠くの町も一撃で吹っ飛ぶ優れもの! ただまぁ動かすのに莫大なエネルギーが必要なので、こうして絶えず採取してるんですがね」 「そんな恐ろしいもの作るなんて、やっぱり侵略者なのね!」 怒りを発露するシルフィード。 「だから、それは誤解ですよ! これらは頼まれてやってるんです」 「頼まれて?」 「確かに注文通りのものを作るために、私の星の技術は使ってますが、人間を無理矢理働かせてる 訳ではありません。ちゃんと報酬だって支払ってますしねぇ。それが何かいけないことですか?」 「当たり前なのね! 兵器を作ってる時点で、侵略者の仲間なのね!」 シルフィードが言い切ると、タマルは何故か不敵に微笑んだ。 「侵略者の仲間ねぇ……。それは、ここにいる方々にもおっしゃってみたらどうです?」 「え……?」 タバサたちによって吸引装置を取り外された人々は、二人の周りに集まってきた。皆怒りと 不機嫌を顔に表している。 だが、それらは全てタバサとシルフィードに向けられていた。 「邪魔しないでほしいんだけど」 貴族の婦人が、はっきりと言った。 「えッ……」 「俺はまだ三時間しかやってないんだぞ! 大した稼ぎにならないだろ!」 別の男が主張した。他の全員も、この二人と同様の気持ちでいるようだった。 「な、何を言ってるのね……?」 予想外の事態に、シルフィードの声が震える。 「さっきの話、聞いてなかったの? あなたたちは、寿命を吸い取られてるのよ! しかもその全部が、 侵略者に利用されてるのね!」 繰り返し言いつけたが、人々の態度は変化しない。先ほどの男は、逆に問い返してきた。 「それが何か関係あるのか?」 「なッ……!」 唖然とするタバサたち。シルフィードは動揺のあまり、タマルを手放した。 婦人が告げる。 「あたしたちはお金が欲しいだけなのよ! 誰だって、お金を得るために時間を使ってる。 あたしたちがやってることとどう違うのかしら?」 「ぜ、全然違うのね! こいつはウチュウ人なのよ! 人間の敵なのね!」 シルフィードがタマルを指差して叫んでも、人々は白けた顔。 「ウチュウ人でもエルフでも、お金さえ払ってくれるなら誰だっていいわよ」 「ですよねぇ」 したり顔でうなずくタマル。シルフィードはどんどんと顔が引きつっていった。 「あ、あなたたちの命で作られたもので、たくさんの人が死ぬのよ! それでもいいっていうの!?」 その叫びも、人々の心を動かすことはなかった。 「そのたくさんの人ってのは、俺たちに金をくれるのか?」 シルフィードは絶句した。人々の間からは、なおも声が上がる。 「しんどい思いをしてやっと金を手に入れるより、多少寿命が短くなっても楽に稼ぐ方が いいに決まってるぜ」 「たとえ長く生きられても、遊んでいられないんじゃあねぇ」 「表じゃろくに仕事にありつけなかった。食うためには仕方ないんだ」 「人が死ぬったって、どうせ見ず知らずの奴だろ? 関係ないし」 「資金を作ってカジノに戻って、今度は勝つんだ! 大金を手にするためだったら、このくらいの ことは何ともないね」 シルフィードの顔は冷や汗まみれになっていた。吐き気も覚えていた。 シルフィードだって普段、愚行を繰り返す人間を冷めた目で見る時もある。だが、ここにいる 者たちは……そもそも『人間』なのか? “良心”というものがないのか……? タマルは薄ら笑いを浮かべて、立ち尽くすタバサに問いかける。 「どうも、お嬢さまも上のカジノの支配人に勝つのに必死になってたみたいじゃないですか。 そこまでするからには、勝たなければいけない理由があるのでしょう? ここで働かないことには、 賭け金は得られませんよ。それとも帰りますか?」 タバサの心中には、大きな迷いが生じていた。自分の任務に失敗は許されない。任務完了できずに 戻ってきましたなどと言おうものなら、母の身がどうなってしまうことか、分かった者ではない。 しかし……だからと言って、ここにいる連中と同じ立場になってしまっていいのか? それは…… 人として根本的に大切なものを、投げ捨ててしまうということではないのか? タバサも額に脂汗を浮かべて、返答に窮していると、シルフィードが苛立ちを爆発させたかの ように怒鳴った。 「いい加減にするのねッ! これを見て、目を覚ましなさいッ!」 シルフィードが懐から出したのは……こんな地下の人工施設なのに、一匹の小さなイタチの ような生物だった。普通のイタチと違い、大きな青い、澄んだ光る目を持っている。 それを見たタマルがギョッと驚く。 「それは!」 「これは“エコー”! 偉大なる古代の幻獣なのね! さっき廊下に出てたら、助けを求める声が 聞こえて、それで見つけたのね! 上では、このエコーの親たちの“変化”の“精霊の力”を利用して イカサマをしてたのよ! あんたたちの稼いだ金も、こうやって巻き上げられる仕組みだったのね!」 子供のエコーがすんすん鼻を鳴らすと、上の階のカジノから、この地下深くまでにも聞こえる 絶叫と怒号、喧噪の声が発せられた。人間には聞こえない鳴き声で、成獣のエコーたちが“変化”を 解き、イカサマが暴かれたのだろう。 ここにいる人々も初めは呆気にとられていたが、事態を理解するとともに、表情が憤怒の色に染まった。 「おい! こりゃどういうことだ!」 「お前、このこと知ってて黙ってたな!?」 「このインチキ野郎ッ!」 人々は一斉にタマルに詰め寄って非難轟々となった。 「い、いえ! 私とカジノはあくまで外部協力ですから、企業秘密を勝手に明かす訳には……」 「そんな言い訳が通るかッ! 馬鹿!」 「俺は賭博で全財産スッてここに来たんだぞ!」 「金返せッ!!」 殺気立つ人々にタマルも身の危険を感じたか、開き直ったかのように言い放った。 「分かりましたよ! 返せと言うなら返しましょう! そらッ!」 と言って床にばらまかれたのは、数十枚の金貨。 その途端、人々の視線の先がタマルから金貨に移った。 「金だ!」 「金だぁッ!」 我先に金貨に群がり、這いつくばる人間たち。瞳には金しか映らず、誰もが手当たり次第に 金貨をかき集め、激しい取り合いにまで発展する。 シルフィードにはその様子が、地面にぶちまけられた残飯に群がる害虫そのものに見えた。 しかしこの間に、タマルが身を翻して部屋から飛び出していった。 「!」 「あッ! 逃げるのね!」 タバサとシルフィードは、金貨集めに必死な人々を置いて、タマルの背中を追いかけていった。 「待つのね!」 通路に出たところで、タバサたちはタマルに追いつく。振り向いたタマルは肩をすくめて言った。 「お嬢さま方、よくもビジネスを台無しにしてくれたものです。いえ、この事態を招いた ギルモアの欲深さを恨むべきでしょうかね。時には身を切るのもビジネスには大事だと 忠告してたのですが……彼にはやはり商才がなかったようですねぇ」 「うるさい! あんたみたいなのは放っておけないのね! 成敗してやるのね!」 シルフィードが怒鳴って宣言すると、タマルは真顔になって眼鏡を外した。 「乱暴なことは嫌いなんですがねぇ……やると言うからには、私も本気を出しますよ」 と言ったタマルの身体が急激にひび割れ、化けの皮が剥がれるように下からマーキンド星人の 本性が現れた。 ここでシルフィードはハッと気づく。今のタバサは杖を持っていない、丸腰の状態だ。 戦いになったら、彼女の身が危ない。だが杖を取りに行っていたら、マーキンド星人には 確実に逃げられてしまうだろう。 しかしこの時、タバサの眼鏡のレンズが閃光を発して、等身大のミラーナイトが飛び出してきた! 『宇宙人! この娘たちに危害を加えることは許さないぞ!』 「ミラーナイト!」 ミラーナイトが駆けつけてくれたことにほっとするシルフィード。タバサは彼女を見上げて告げた。 「わたしたちはギルモアの方を」 「は、はいなのね!」 タバサたちが上の階への道へ向かっていくと、ミラーナイトが戦いの構えを取った。だがそれを 制するようにマーキンド星人が言う。 『おっと! 私を倒すと言うのなら、ここの人間たちも倒すんだろうな?』 『何!?』 動きの止まったミラーナイトに、マーキンド星人は語る。 『お前も見てたのだろう。ここの人間たちは自ら望んで侵略兵器にエネルギーを与えてる。 奴らだって私と同罪だ。違うか?』 マーキンド星人の言葉に、ミラーナイトは反論できなかった。 『星の滅亡に手を貸す人間! 自らの命を売りに出す人間! お前たちはそんな連中のために 戦うのか? それとも自己満足か?』 マーキンド星人の問いかけに、ミラーナイトはしばし無言だったが、その末にこう答えた。 『……私たちは、一生懸命に生きる人が一人でもいるのなら、そのためにどこまでも戦うッ!』 『ふッ、勇ましいことだな……』 マーキンド星人はクルリと背を向けると、急加速して通路の奥へと逃亡していく。ミラーナイトも 床を蹴って跳び、それを追いかけていく。 そうして二人は地上に出て、無人の開けた路地裏で着地した。 『ここがいい。せっかくあそこまで作った装置だ。壊されちゃ大損だからな』 そう言ったマーキンド星人が、手の平から怪光線を放って攻撃を仕掛けてきた! 『はッ!』 ミラーナイトは瞬時にディフェンスミラーを張って光線を反射するが、マーキンド星人は 素早い動きではね返された光線を回避。ミラーナイトの右に回り込んで、目から光弾を撃ち出す。 『とぁッ!』 ミラーナイトも跳躍して光弾をかわしながら、マーキンド星人に飛びかかった。が、マーキンド星人は それからも逃れる。 マーキンド星人のスピードはミラーナイトと同等以上もあり、立ち回りで彼と互角に張り合う。 何度かの間合いの取り合いの末、マーキンド星人とミラーナイトが同時にジャンプ。その結果、 ミラーナイトの飛び蹴りがマーキンド星人の腹部に突き刺さる結果となった。 『ぐあッ!』 マーキンド星人は地面の上を転がる。戦士ではない彼では、スピードは互角でもミラーナイトからは 数段実力が劣るようであった。 腹を抑えながら立ち上がったマーキンド星人は、いきなりミラーナイトに告げた。 『お人好しのお前に教えてやろう。私にあの侵略兵器を頼んできたクライアント、それは……人間だ!』 『……!』 ミラーナイトの動揺したところを狙って飛びかかろうとするマーキンド星人。しかしミラーナイトは すかさず、時間差で二発のミラーナイフを放った。 身体を傾けてミラーナイフをかわすマーキンド星人。が、一発目は空中で停止して鏡に変化し、 二発目がそれに当たって反射。マーキンド星人の背面から胸部を貫通した。 『ぐああぁぁぁぁぁぁッ!』 倒れたマーキンド星人が青い炎となって爆破炎上した。肉体の破片はそのまま燃え尽き、 跡には何も残らなかった。 『……』 ミラーナイトはしばらくの間、そのまま立ち尽くしていた。 ギルモアの方も、タバサによって捕らえられ、エコーの子供は親たちに返された。ギルモアはやはり、 イカサマで巻き上げていた金を貧しい人に分け与えたりなどせず、全て自分の懐に入れていたようだ。 事の顛末は結局、ギルモアの自業自得といったところだろうか。侵略者に協力した門で罪に問われるかも しれないが、タバサはギルモアのその後の行く末を何も知らなかった。興味もなかった。 地下のカジノと、工場は閉鎖されることとなった。工場で働いていた人間はその後、 何事もなかったかのように元の生活に戻っていった。……その内の一人は、こんなことを ぼやいたそうだ。 「あーあ、楽だったのになー」 ……この事件の後は、普段はお肉食べたいと主張するシルフィードが、ずっと無言のままであった。 タバサもまた気持ちが良くなかったが、同時にシルフィードがいなかったら危うかったこと、イカサマの タネを見破れなかったことを反省し、もっと賢く強くならなければいけない、と決心を固めたのだった。 が……それも結局は、無為に終わってしまった。 タバサの意識が現実に戻る。ふと気がつくと、窓が外からコンコンと叩かれていた。 「パムー」 目をやれば、窓の縁に黄色いふわふわとした毛を生やした、小さな獣のようでありながら、 しかし背中に一対の白い羽を生やした、見たことのない生き物がいた。それが窓ガラスを叩いていた。 タバサが窓を開けると、生き物は小さな羽をパタパタ動かして宙を飛び、ポスンとタバサの 腕の中に収まった。 「パムー」 生き物は喉をごろごろ鳴らしてタバサに甘える。 「この『イーヴァルディの勇者』は実に興味深いな」 不意に声がした。顔を向けると、ビダーシャルが部屋に入ってきていて、今しがたタバサが 読んでいた『イーヴァルディの勇者』に視線を落としていた。 「我らエルフの伝承は、似たような英雄を持っている。聖者“アヌビス”だ。彼は“大災厄”の危機に あった我らの土地を救ったとされる。この本によると、光る左手を勇者イーヴァルディは持っているな。 我らの“アヌビス”は、やはり聖なる左手を持っていた。エルフと人間の違いはあれど、興味深い共通点だ」 次いでビダーシャルは、タバサの腕の中の生き物に目をやった。 「その生物がこの部屋の外に泊まっているのを見かけて、見に来たが、お前には懐いたようだな」 「この生き物は何?」 「分からん。我らの知識の中にもない。我がこの城に来た時からここにいるが、誰にも近寄るところを 見たことがない。それなのに、お前は大分気に入られたようだな」 「パムー」 黄色い生き物は、タバサと目が合うとひと鳴きした。 「これも“大いなる意思”の導きだろう。短い期間となるが、この出会いを大事にした方がいい。 何かが変わるかもしれぬぞ」 ビダーシャルはそう言いつけて、部屋を出ていった。 いつもの知識欲の強いタバサなら、この不思議な生き物に大いに興味を示しただろう。 しかし、これから心をなくすという諦めは、彼女の知識欲をも奪っていた。 「パムー」 タバサは自分に懐く生き物を追い出す気にもならず、そのまま膝に乗せ、再びベッドに腰掛けて 『イーヴァルディの勇者』を開いた。今度は、母と生き物に朗読を聞かせ始めた。 このようにタバサは時を過ごし、運命の日が来るのをじっと待ち続けた。 その一方で、ガリアへの密入国を果たした才人たちが、着々とタバサの囚われたアーハンブラ城への 道程を進んでいた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9053.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十六話「SOSタルブ村」 岩石怪獣ゴルゴス 登場 トリステインの一地方にある、数十年前にうち捨てられた開拓村の、廃墟となった寺院。 誰も手入れをしないので荒れに荒れ、かつての壮麗な装いは見る影もない。しかし代わりに、 心を和ませるような牧歌的な雰囲気が漂っている。 だがそれも、寺院の前に岩で出来上がった小山が存在していなければの話だ。しかもその小山は、 あろうことか「自力で動いていた」。そして、二人の少女を追い回していた。 「アッギャーオオオオウ!」 その動く小山の正体は、岩石怪獣ゴルゴス。かつて富士山に出現した怪獣の別個体だ。 この開拓村は、ハルケギニアの怪物であるオーク鬼の群れに乗っ取られて放棄されたのだが、 最近になってゴルゴスが出没し、今度はオーク鬼が追放されて村はゴルゴスのテリトリーになった。 オーク鬼は怪力を誇るモンスターだが、体長40メイルで、全身が岩石で構築されたゴルゴスには、 オーク鬼の怪力でさえ歯が立たなかったのだ。 「『ウィンディ・アイシクル』!」 「『フレイム・ボール』!」 そのゴルゴスに追い回されながら攻撃を加えているのは、タバサとキュルケのコンビ。 二人は氷の槍と火球でゴルゴスの身体の一部を砕くが、ゴルゴスの岩石の身体は本当の肉体ではない。 そのため、以前フーケが差し向けた土ゴーレムのように、砕ける端から地面の岩石を取り込んで 再生してしまうので、まさしく焼石に水というありさまだった。 「アッギャーオオオオウ!」 タバサとキュルケの魔法をものともせず、ゴルゴスは口から蒸気を噴き出しつつ執拗に追いかける。 決して身動きは素早いとはいえないが、如何せん巨体なのと、村の建物を薙ぎ倒して迫るので、 二人ともじりじりと追い詰められていく。もし追いつかれたら、その時は岩石の身体で押し潰されてしまうだろう。 だが二人が危ない時に、ゴルゴスの面前に七体の青銅の戦乙女の像が出現した。隠れているギーシュが 作り出したゴーレムだ。ワルキューレはゴルゴスの顔面に短槍を突き立てる。 「アッギャーオオオオウ!」 だがそれも、ゴルゴスにとってはかすり傷。タバサたちの代わりにワルキューレを潰し、 バラバラにしていく。 しかしこの時、ゴルゴスは気がついていなかった。ワルキューレを破壊していく内に、 大木の側まで近寄っていくこと、そしてその大木の葉の中に才人が隠れていることに。 「だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 才人はゴルゴスが十分に近づくと、叫び声を上げつつその背中の上に飛び乗った! 「アッギャーオオオオウ!」 背中に違和感を覚えたゴルゴスはすぐに才人を振り落とそうとするが、才人は岩肌にしっかりと しがみついて耐え、目の前の岩の中から覗く、光る球体へにじり寄る。 これがゴルゴスの本体。ゴルゴスは本体である核を中心に、岩石を寄せ集めて動く身体を作り出す怪獣だ。 そのため岩石をどれだけ砕いても無駄。倒すには、背中にある核を破壊する以外にない。 「よしッ、今だ相棒! やっちまいな!」 間合いに入った瞬間に、手の中のデルフリンガーが叫んで、刃が強く輝いた。その合図で意を決した才人は、 脚で岩肌にしがみつきつつ、デルフリンガーを振り上げて刃をゴルゴスの核へ振り下ろした! 見事、核は真っ二つに切り裂かれる。それからすぐにゴルゴスから飛び降りて、全速力で離れた。 「アッギャーオオオオウ!!」 核を断たれたゴルゴスは途端にきりきり舞いして、断末魔を上げるとその場に倒れた。 そしてその身体は、元の単なる岩石へと逆戻りした。 ゴルゴスを打倒した夜、才人たちの一行は、安全になった寺院の中庭で焚き火を取り囲んでいた。 誰もかれも、疲れきった顔をしていた。その内に、ギーシュが恨めしそうに口を開いた。 「キュルケ……伝説の秘宝『ブリーシンガメル』とやらはこれかね?」 ギーシュが指差したのは、色あせた装飾品と、汚れた銅貨が数枚。寺院のチェストの中にあったものだ。 それ以外に、目ぼしいものは発見できなかった。 ギーシュはわめいた。 「なあキュルケ、これで七件目だ! 地図をあてにお宝が眠るという場所に苦労して行ってみても、 見つかるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた秘宝なんか カケラもないじゃないか! インチキ地図ばっかりじゃないか!」 「うるさいわね。だから言ったじゃない。〝中〟には本物があるかもしれないって」 「いくらなんでもひどすぎる! 廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし! 割にあわんこと甚だしい! 今回などは、怪獣が相手だったのだぞ! その結果がこれか!」 「化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が手に入ったら、誰も苦労しないわ。それにあんたは隠れてたじゃない」 当たり散らすギーシュに、キュルケは冷めた返事をした。タバサは我関せずといった顔で本を読んでいる。 どうして彼らが今こんな状況になっているか、それはアルビオンから帰還した直後のことから説明をしよう。 才人たちが帰還してから三日後、正式にアンリエッタとゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世との婚姻が発表され、 一ヵ月後に式が行われるはこびとなった。それに先立ち軍事同盟が締結され、翌日にはアルビオンの新政府樹立が公布された。 トリステイン、ゲルマニア両国に緊張が走ったが、アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルはすぐに不可侵条約を打診してきて、 両国はこれを受けた。いつ破られるかも分からぬ条約だったが、特にトリステインの軍備の整う目途が立たない以上、 受けざるを得なかった。その結果、トリステインには表面上だけの平和が訪れることになった。 だが政治上の問題は、政治家以外には関係のないこと。魔法学院も同じで、才人たちは一応は 平和な日々を過ごしていた。しかし冒険に味を占めたキュルケは、あちこちからかき集めた 怪しい「宝の地図」なるものをひけらかして、親しい者たちを宝探しの旅に誘った。才人は渋ったが、 強引なキュルケやアンリエッタにプレゼントするための秘宝が手に入るかもとそそのかされたギーシュに 引っ張られたことと、年相応の好奇心と冒険心をわずかにもくすぐられたことで、同行を決めた。 だが途中経過は、現状の通りであった。 ギーシュの怒りに応じるように、深いため息の音がした。 「馬鹿らしい。やっぱり、あんたが持ってくる宝の地図なんて、本物の訳がなかったわね」 「あら……一番何もしてないのに、口だけは偉そうね、ルイズ」 キュルケに言い返され、何も書かれていない本をめくって、時折何かをブツブツつぶやいているルイズは、 きっと目くじらを立てた。 帰還してから、一番変化のあったのはルイズだ。変化は二つ。まず一つは、才人にやたら優しくなった。 雑用を言い渡すことがなくなり、代わりに自分でやるようになり――まぁこれはルイズがひどく手慣れないので、 結局才人が手を貸すことになったが――テーブルの食事や寝る際にベッドで寝ることを許可したりするようになった。 才人にとっては負担が減るので万々歳のはずだが、急激に態度が軟化したので逆に薄気味悪く感じた。 しかしそれはルイズには秘密だ。 もう一つは、内的な変化ではない。アンリエッタの結婚式が執り行われるにあたって、 伝統により式で祝詞を詠む巫女が選ばれる。そしてその巫女にアンリエッタは、 ルイズを指名したのだ。そのためルイズは、これも伝統により、トリステイン王家の秘宝である 『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠む詔を自分で考えなければならなくなった。 だがルイズは、その詔がちっとも作れないでいた。アンリエッタの結婚が、本人の望んだものではないことを 知っているので気が乗らないし、そもそも詩すらまともに考えたことがないのだ。それでいきなり祝詞を考えろなんて、 無理がある。それで煮詰まっていたところにキュルケの誘いがあって、気晴らしとキュルケが才人に何か ちょっかいを出さないように見張る目的でついてきた。 が、キュルケの言う通り、ここまでルイズが何か役に立つことをした試しはなかった。 森の中でスフランに襲われた時も、洞窟でグモンガに襲われた時も、今回も、戦いの時は 常に蚊帳の外であった。 「……何よ。何が言いたい訳?」 「別に? あたしは別に、あなたのこと、みょうちきりんな呪文みたいなのをブツブツ唱えて 食事を消費するだけのお荷物だなんて、これっぽっちも思っちゃいないわよ」 キュルケの嫌味で、ルイズは我慢ならずに杖を抜きかけた。それを才人が慌てて押しとどめる。 「や、やめろってルイズ! こんなところで喧嘩は! ほら、シエスタが食事作ってくれたぞ!」 「みなさーん、お食事ですよー!」 非常に険悪な雰囲気になっていたところで、ちょうどよくシエスタが鍋からシチューをよそいつつ明るい声を出した。 このシエスタも、偶然キュルケの話を聞いて、マルトー料理長に頼み込んで旅の同行を申し出た。目的は、 ルイズの後者のものと同じである。 まぁ動機は何であれ、シエスタがいなければ美味しい料理にはありつけなかったので、 才人たちは感謝していた。特に今は、張り詰めた空気を取っ払ってくれたので、才人は深く安堵した。 「これはなんていうシチューなの? ハーブの使い方が独特ね。あと、なんだか見たこともない野菜がたくさん入ってるわ」 「わたしの村の名物で、ヨシェナヴェっていうんです。父から作り方を教わったんです。 その父は、ひいおじいちゃんから教わったそうです」 キュルケとシエスタが話していると、ギーシュが不意に世間話をし出した。 「時に皆、知ってるかい? 最近、この周辺で、奇妙な強盗が出没するそうなんだ」 「奇妙な強盗? 何それ」 ルイズが聞き返すと、待ってましたとばかりにギーシュが説明する。 「貴族や商人がよく山道で襲われて、人死にも出てるそうだが、不思議なことに、その強盗は 金貨や金しか奪っていかず、他の金目のものには一切手をつけないという。それで巷じゃ 「黄金泥棒」と呼ばれてるよ」 「贅沢な強盗ね。金貨も持ってない今のわたしたちは、狙われないでしょうけど」 「生き残った被害者の証言だと、金色の竜を見たということだが、まぁ気が動転してたんだろうし、 どこまで信じられるか分かったものじゃないね」 「そうね。黄金の竜が金を奪っていくなんて、お伽話もいいところだわ」 ルイズは適当に聞き流したが、才人はその話で、ある怪獣を思い出した。だがわざわざ 口に出すことでもないので、特に何も言わなかった。 食事の時は場が和んだが、終わるとキュルケがすぐに宝の地図を広げたので、ギーシュがすっかり辟易した。 「もう諦めて学校に帰ろう」 「あと一件だけ。一件だけよ」 キュルケはギーシュの促しを聞き入れず、一枚の地図を選んで、地面に叩きつけた。 「これ! これよ! これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」 「なんというお宝だね?」 キュルケは、腕を組んで呟いた。 「『竜の羽衣』」 皆が食事を終えたあと、シチューを食べていたシエスタが、ぶほっ、と吐き出した。 「そ、それホントですか?」 「なによあなた。知ってるの? 場所は、タルブ村の近くね。タルブってどこらへんなの?」 キュルケがそういうと、シエスタは焦った声で呟いた。 「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……わたしの故郷なんです」 翌朝、一行はシルフィードの上で、シエスタの説明を受けていた。ただ、あまり要領を得なかった。 とにかく、村の近くに寺院があること。そこの寺院に『竜の羽衣』と呼ばれるモノが 存在していることだけは確かだった。 「どうして『竜の羽衣』って呼ばれてるの?」 キュルケが質問する。 「それを纏ったものは、空を飛べるそうです」 「空を? 『風』系のマジックアイテムかしら?」 「そんな……たいしたものじゃありません」 「どうして?」 シエスタは、困ったようにつぶやいた。 「インチキなんです。いえ、それ以前に……壊れてるんです。ただ、地元の皆はそれでも ありがたがって……寺院に飾ってあるし、拝んでるおばあちゃんとかいますけど」 それから、恥ずかしそうな口調で言った。 「実は……それの持ち主、わたしのひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりとわたしの村に、 ひいおじいちゃんはあらわれたそうです。そして、その『竜の羽衣』で、東の地から、 わたしの村にやってきたって、皆に言ったそうです。でもさっきの通り、飛べないから皆信じなくて。 でもわたしの村に住み着いたおじいちゃんは、一生懸命働いてお金を作って、そのお金で貴族にお願いして、 『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけてもらって、大事に大事にしてました」 話を聞いた才人は、シエスタに指摘する。 「それってようは村の名物なんだろ? そんなの、持ってきたらダメじゃん」 「でも……わたしの家の私物みたいなものだし……サイトさんがもし、欲しいって言うなら、 父にかけあってみます」 才人はそんなインチキな代物いらないと思ったが、キュルケが解決策を打ち出した。 「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよね。世の中にバカと好事家ははいて捨てるほどいるのよ」 それにルイズは呆れて言った。 「つくづくひどい女ね」 一行を乗せて、シルフィードは一路タルブの村へと羽ばたいた。 「な……な……」 「え……? 嘘……」 空の上からタルブ村を見下ろした一行は、絶句した。地上に降り立った時には、もっと言葉をなくしていた。 タルブ村は、シエスタ曰く、何もない辺鄙な村だが、のどかで平和ないいところだという。 が、今はその面影など微塵も残っていなかった。大地は割れ、畑は無残に荒れ果て、 民家は半壊していない方が少ないありさま。ペシャンコに潰され、黒い煙がくすぶっているところもあった。 まばらにいる村民たちの顔からは、完全に生気が消えて虚ろになっている。 「ど、どういうこと? 大地震でも起きたの?」 大災害に見舞われたとしか思えないような惨状に、ルイズが思わずそうつぶやいた。 そして一行は、シエスタの先導の下、彼女の生家の前へとたどり着く。だがその家も崩壊しかけていて、 家の前には中年男性が切り株の上でうなだれていた。 「お父さん!」 シエスタはその男性を父と呼んだ。シエスタの父親は顔を上げると、シエスタの姿を確かめて驚きを見せた。 「シエスタ……! 帰ってたのか。後ろの人たちは?」 「私が働いてる魔法学院の生徒の方々です」 「要するに、貴族の方という訳か。歓迎したいところですが……すいませんが、とてもじゃないけど 出来る状態じゃありません。どうか、お許し下さい」 見るに堪えない様相のシエスタの父に謝られ、ルイズたちが逆に申し訳ない気持ちになった。 「そ、そんな、気にしないで下さいよ。それより、一体ここで何が起きたんですか? どう見ても、 普通じゃないですよ、これは」 才人が尋ねかけると、シエスタの父はタルブ村を囲む山の一つを指し示しながら、ポツリポツリと語り出した。 「十日ほどばかり前だったか……あの山に、見たこともないほど巨大な黄金色の竜が棲み着きまして、 そいつがこの村を荒らすようになったんですよ。それで、見ての通りのありさまです……」 「り、竜!?」 「いえ、荒らすと言うのはちょっと違いますね。何せ、奴はただ、ここを通り道にしてるだけなんですから……」 シエスタの父の証言に、ルイズたちは絶句した。ハルケギニアには竜が自生し、稀に竜に村を襲われて 潰されるという被害が起こることもあるが、通り道にするだけでこれほどの被害を出す竜の話は 誰もが聞いたことがなかった。一体、どんな竜であれば動くだけで村を壊滅状態にまで追い込めるのか。 しかし才人だけは、黄金色の竜と聞いて、その正体に薄々ながら察しがついた。そのため、 シエスタの父にもっと詳しく問いかける。 「あの、その竜の姿って、もっと具体的に分かりますか!?」 「具体的に……? そういえば、ウチの子が竜の絵を描いてましたね。今持ってきましょう」 シエスタの父は崩れかけている家の中に用心して入り、ほどなくして、一枚の絵を持って出てきた。 「これです。子供の絵だけど、特徴は捉えてますよ。こいつが村を滅茶苦茶に……ここまで荒らされては、 復興は無理だ。そんな金はこの村にはない。タルブ村はおしまいだ……」 「お、お父さん……」 悲嘆に暮れるシエスタの父を置いて、才人は絵を確かめる。その絵に描かれている竜は、 確かに黄金色の皮膚をしていて、首から尻尾までが芋虫のように蛇腹状になっていた。 頭部には、内側に反り返った一本角が生えている。 才人は絵の竜に見覚えがあった。前に怪獣図鑑で見た怪獣の一体と特徴が合致している。 説明文の内容を一読して、何とも贅沢な怪獣だなぁとの感想を抱いた。何せその怪獣は、 「黄金が食料」なのだ。 「こいつは……黄金怪獣ゴルドンだ!」 知らず知らずの内に、名前を口に出していた。 「そ、そんな……草原まで……」 シエスタの父から話を聞いた後、一行はシエスタが宝探しの旅に出る前に、才人に見せたいと語った、 草原の前へと足を運んだ。しかし、その草原もやはり荒れ果てていたため、シエスタは思わず脱力して崩れかけた。 ルイズとキュルケで慌てて支える。 シエスタは草原について、この季節になると地平線まで海のように花が咲き誇り、とても綺麗だと言っていた。 だが今目の前にあるのは、甲羅の模様のようにひび割れた大地だ。土は掘り返され、花は全滅して花びらが 無残に散っている。美しい花園は見る影もなかった。 「だ、大丈夫? ショックなのは分かるけど……」 ルイズがシエスタを気遣うが、彼女は草原の惨状を目の当たりにした衝撃のせいで、まっすぐ 立っていることも出来なかった。仕方なく、その場にゆっくりと座らせる。 「帰ってきたら、是非サイトさんに見てもらいたかったのに……。ああ、始祖ブリミル、 どうして私にこれほどの仕打ちをなさるのですか? 私が何か、悪いことでも……」 そのまま泣き崩れるシエスタ。今は変に気遣うより、そっとしておこうと才人たちは決め、 自分たちの話をすることにする。 「それで、使い魔君、何と言ったかね? この村を滅茶苦茶にしたのは、ええと……」 「ゴルドンだ」 ギーシュの聞き直しに、才人はひと言答えた。 「昨日お前、黄金泥棒の話をしてたよな? きっと、その犯人はゴルドンで間違いない。 本来は金脈を食べる怪獣なんだが、この辺には金脈はないんだってな。だから、 人間の持ってる金を奪って食べてるんだろう。その時の行き帰りでタルブ村を何度も 横切ったせいで、こんなことになっちまったんだな」 「迷惑ってもんじゃない話ね……。でもまさか、黄金泥棒の犯人がほんとに竜……いえ、 怪獣だったなんて。しかも金が食料の生き物なんて、聞いたこともないわ」 「奇想天外な食性」 キュルケたちがゴルドンについてあれこれ話し合っている間に、ルイズは才人の中のゼロにそっと、 しかしきつい口調で問いかけた。 「ゼロ、どうしてタルブ村がこんなになるまでほっといたのよ。怪獣退治のためにハルケギニアに来たんでしょ?」 それにゼロはこう返答した。 『……俺は怪獣が「暴れてる」声を出動の合図にしてる。だがゴルドンは暴れてすらいない。 だからこのタルブ村がこんなことになってるなんて分からなかったんだ。……けど、 それは言い訳でしかないな。俺の見通しが甘かった……』 ゼロが相当反省しているようだったので、ルイズは逆に気が引けた。 「あ……別に責めてる訳じゃないわ。でも分かった以上は、どうかタルブ村を助けてあげて。 これ以上の被害が出るのは見過ごせないわ」 『もちろんそのつもりだ。次にゴルドンが地上に出てきた時には、この手でタルブ村の惨劇を終わらせてやるぜ!』 ゼロが息巻いたが、ちょうどその時に、キュルケがこんなことを言い放った。 「でも黄金を食べるってことは、身体には当然黄金が溜め込まれてるってことよね。……ようし、 あたしたちの手で退治してやろうじゃないの!」 「え、ええええええ!?」 それを耳にして、ルイズや才人が思わず変な声を出した。 「あんた、本気で言ってるの!? 移動するだけで村を一つ壊滅状態に追いやるような奴なのよ! わたしたちだけで勝てる訳ないじゃないの!」 「そうだ! 怪獣はたかだか俺たち数人で倒せるような相手じゃないんだぞ! 考え直せ!」 「昨日はその怪獣に、あたしたちの力で勝ったじゃない」 キュルケが反論すると、黄金に魅力を感じながらもさすがに脅えているギーシュが指摘する。 「それは使い魔君が怪獣の弱点を知ってたからだろう。それがなければ、勝ち目なんてなかったよ。 ここはその使い魔君の意見に従うべきじゃないかね」 そのギーシュの言葉で、キュルケがふとあることに疑問を抱く。 「……そういえば、ダーリンって怪獣なんて未知の生き物にやたら詳しいわよね。そもそも、 名称もダーリンから広まったものじゃなかったかしら?」 「モット伯の時には、奇妙な武器も使っていた。あれは、何?」 タバサにまで突っ込まれて、才人とルイズは心臓が跳ね上がった。 「そ、それはあれだよ。ええっと……怪獣は、東のロバ・アル何たらの生き物なんだ! だから色々知ってるんだよ!」 「そ、そうなんですって! 武器もロバ・アル・カリイレ製らしいわよ! だからハルケギニアじゃ お目に掛かれないのよ!」 才人が異世界の人間だとおおっぴらに言う訳にはいかないので、東方の地、ロバ・アル・カリイレ出身に していることを持ち出して、ごまかそうとした。 「ふぅ~ん……? エルフの砂漠の向こうは、かなり物騒な世界なのね」 「……」 タバサはまだ疑いを残しているようだったが、キュルケは深く考えることはなかった。 とりあえずごまかせたことで、才人とルイズはほっと息を吐く。 「話がそれたわね。危ないのは分かったけど、やっぱり怪獣探しには行きましょう! 巣も大きいはずだから、すぐに見つかるはずよ」 「って、あんたまだ言うの!? いくら何でも無謀すぎよ! どれだけの黄金も、命には代えられないのよ!」 撤回しないキュルケにルイズが説教するが、反対に説かれることになる。 「けどルイズ、怪獣をどうにかしないことには、この村は救われることがないわよ。それどころか、 もっとひどいことになるのが目に見えてるわ。トリステイン軍はあてになんか出来ないしね」 「うっ……」 キュルケの指摘が正しいので、ルイズは言葉に詰まった。トリステイン軍は立て直しが進むどころか、 魔法衛士隊の一角を担ったワルドの裏切りで余計に混乱を起こしている。それ以前に、 万全の状態であったとしてもタルブ村のような辺境の地のために、多大な危険を冒してはくれまい。 「怪獣を退治しなきゃ、『竜の羽衣』どころじゃないわ。あたしたちの目的のためにも、この村のためにも、 今この場にいるあたしたちが動かなきゃいけないのよ」 「しかしキュルケ、何度も言うが、そもそも僕たちに退治は無理だよ。死にに行くようなものだ」 ギーシュが異を唱えると、キュルケはこう返す。 「退治するのはあたしたちじゃないわよ。ウルトラマンゼロにやってもらうの」 「ええ!?」 「あたしたちで怪獣を地上に誘き出して、ウルトラマンゼロを呼ぶのよ。きっとすぐにやってきて、 怪獣なんかちょちょいのちょいでやっつけてくれるわ。それだったら、出来ないことはないでしょ」 「そんな、ゼロを便利屋みたいに扱うような真似……」 ルイズは顔をしかめたが、 「じゃ、他に何か方法ある?」 と聞かれると、何も答えられなかった。ゼロはもう何もしなくともゴルドンを倒すつもりだと説明しようにも、 それを話すことは自分たちとゼロの関係を話すことにつながるので、出来なかった。 「それじゃ決まりね。善が急げだわ! すぐに行動に移りましょう。タバサ、シルフィードにもうひと働きしてもらって」 空から探す考えのようで、キュルケがタバサに頼み込む。その後ろ姿に目をやったルイズがため息を吐いた。 「キュルケの奴……この間の氷の宇宙人と、岩石怪獣を倒す助けになったからって、調子づいてるんじゃないかしら。 何だか不安だわ……」 『まぁ、そう心配するな。俺がこの通りついてるんだから、マジでやばい事態にはさせないって』 顔を曇らせるルイズに、ゼロが請け負った。そうしていると、一行の話を横で聞いていたシエスタが、 才人に問いかける。 「サイトさん……タルブ村を助けてくれるんですか?」 「えっと……それは……」 「……本当なら、そんな危険なことはしないでほしいです。けれど……もう故郷の苦しむ様子は、見たくありません。 こんな荒れ果てた草原も……。だから、すみませんが、どうかタルブ村を救って下さい……」 旅の間には、才人が危険を冒すことに消極的ながらも反対していたシエスタ。その彼女が 苦渋に満ちた顔で頭を下げたので、迷っていた才人は決心がついた。 「……分かったぜ。俺たちに任せといてくれ。絶対に、これ以上怪獣の好きにはさせないからな」 そのシエスタと才人の姿を見ては、ルイズもこれ以上反対の意見は出せなかった。 そしてルイズたち一行はシルフィードに跨って、ゴルドンの巣を探しに山へ向けて飛び立った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9169.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十四話「共生の空」 共生宇宙生命体ギラッガス 宇宙鳥人アイロス星人 登場 行商人と翼人の女から、宇宙生命体の正体を晒した「ギラッガス」というコンビ。人間の姿に 化け直した二人を捕らえたミラーとタバサは、尋問を続けて様々な情報を聞き出した。 「俺たちの種族は定住の地を求め、大宇宙を放浪している。地球人には「ギリバネス」という名前で呼ばれている」 「私たちは二人で一人を構成する、共生生命体よ。吸血生物の私が彼から血をもらう代わりに、 飛行能力を授ける「翼」の役割をこなすの」 ギラッガスの二人が語った自分たちの生態に、タバサは若干関心を持った。違う種の生物同士が 足りないところを補い合って生きていく『共生』は知っているが、知的生命体でそれを行うという話は 聞いたこともない。世界にはそんな生き物も存在するのか。 パートナーという点では、メイジと使い魔の関係に似てなくもないが、彼らの間にはどっちが 上とかは存在せず、対等の立場であるとのことだった。 「俺たちは初め、ヤプール人の誘いに乗って群れでこの星へやってきた。目的はもちろん、 ハルケギニアの土地をいただくことだ」 ギラッガスの男は続けて語る。 「やはり、宇宙人連合の仲間だったのですね」 「ああ。だが……最初の攻勢の時に、ウルトラマンゼロがトリステイン攻撃担当を瞬く間に 撃破したところを目の当たりにした群れのトップは、早々に侵略を諦めて元の宇宙への退却を決定した」 「私たちは、この星が文明の進んでない原始的な星と聞いたから侵略に乗り出したの。以前地球に 侵攻した時は、手痛い目を見たから……。あの時と同じようにウルトラ戦士がいるというのも、 上が震え上がった理由の一つよ」 「俺はそれが頭に来た! 一度ならず二度までも怖気づきやがって! そんな弱腰じゃあ、 いつまで経っても安住の地など見つかりっこない! 一人でもこの星を奪い、腰抜けの群れを 見返してやる! そう考えて俺は群れに反抗し、追放者「ギラッガス」となってまで この星に留まった。胸の傷は、その時に証として刻まれたものだ」 男の胸には、変身してもなお傷跡がくっきりと残っている。 「だが……考えが甘かった。俺たちよりずっと強い連中がウルトラマンゼロに次々と敗れただけじゃなく、 奴には強力な味方までいる。お前たちのことだ、ミラーナイト……」 「どうも」 「状況は日が経つごとに悪くなるばかり。単騎での侵略は絶望的になった。しかし、群れには今更戻れない。 途方に暮れていたところに、連合の仲間の一人が独自作戦の協力を誘ってきた。それが今やっていることだ」 「その作戦というものは、どういうもの?」 今度はタバサが尋ねた。 「人間に姿を変えて二つの集団に近づき、武器を与えて互いに争い合うよう仕向け、共倒れさせる作戦だ。 人間同士での戦いには、ウルトラ戦士は介入できないからな。ここエギンハイム村は、そのための実験場にされているのだ」 やっぱり、そういうことだったのか。納得したミラーは、次にこう問いかけた。 「しかし、あなたたちは先ほど消極的な態度を見せてましたね。村の人たち、翼人たちに、 何か思うところがあるのでしょうか?」 ギラッガスの男女はしばし気まずそうに黙ってから、観念したように吐露する。 「……最初は、この星の人間、亜人は、いつまでも争いを続ける野蛮な者たちと思って、 利用することに罪悪感はなかった。だが……正体を隠してエギンハイム村に入り込んでから、 それが間違いだと気づかされた。彼らは、浅慮で欲深いところもあるが、純朴で優しい部分の 大きい人たちだった。群れの仲間たちを思い出したよ……」 「翼人も、少しばかり保守的だけど本質は争いを好まない心穏やかな人たちばかりだったわ。 中には、違う種族同士で歩み寄り、愛を育んでいる者もいる。結果的に彼らを引き裂こうと していることに、私たちは後悔しているわ……」 「何度か実験の中止を訴えたが、奴は聞く耳を持たない。奴は己の利益にしか興味がなく、 人間の命がどうなろうと構わないのだろうな。……いや、それは俺たちも同じだった……」 うなだれてつぶやく男。 「……こうなった以上、今更じたばたしない。殺すなら殺せ。いや、俺たちを皆の前に引き出して 正体を明かすといい。それで争いは止まるはずだ」 とミラーに告げるが、当のミラーは少し考えてから、次のように返した。 「いえ、今のところは、このまま解放することにしましょう」 「な、何!?」 ミラーの言葉に、タバサも、当のギラッガスたちも驚愕した。 「馬鹿を言うな! 俺たちはお前の敵、侵略者だぞ! ふざけてるのか!?」 訳が分からず、男が声を荒げると、ミラーは対照的に冷静に言った。 「今はもう、違うのでしょう?」 「なッ……!?」 「今のあなた方には、侵略の意思はない。悔い改めています。そんな人を、どうして罰することが 出来ましょうか。ですから、ここは見逃してあげます」 タバサは目を丸くしてミラーに聞き返す。 「本当に?」 「ええ。彼らの言葉に嘘はない。保証しますよ」 穏やかに微笑んだミラーだが、途端に表情を引き締めてギラッガスに向き直る。 「ただし、この村の争いを放置することも出来ません。私は明日にでも、真実を明かすつもりです。 そうなったら、あなた方は当然、この村にはいられなくなりますね」 「……」 「もし一度は踏み外した道を改めたいと思うのなら……自分たちがどうするべきか、明日までに 考えておいて下さい。では、もう行っていいですよ」 ギラッガスの男女を立たせるミラー。二人はしばし呆然と彼の顔を見つめていたが、 やがてフラフラとその場を離れていった。 ギラッガスがいなくなってから、タバサがミラーに尋ねかける。 「……彼らに何をさせるつもり?」 それに、ミラーはこう答える。 「私が何をしてもらいたいのか、ではなく、彼らがどうしたいのか、です。私は、彼らがより良き 答えを出してくれるのを願っているだけですよ」 「……あなた、優しい」 「ふふッ。強く、そして優しい者こそが真の騎士だと、私は考えているんですよ」 もう夜はすっかり更けている。ミラーとタバサも、明日に備えて村に戻ることにした。 「どちらにせよ、明日が正念場となるでしょう。英気を養っておかねば……」 翌日……。エギンハイム村の人々は、陽が山の向こうから顔を出してすぐの早朝に、村のはずれの 広場にギラッガスの男から招集された。 「行商人さん、こんな朝っぱらからみんなを集めて、何をするつもりだい?」 「まさかこんなに大勢で、翼人どもに攻め込もうってのか?」 「……大事な話があるんだ。ついてきてくれ」 と言って男に案内された先の広場に待っていたのは……。 「あッ! 翼人どもじゃねぇか!」 何と、同じく大勢の翼人たちであった。彼らはギラッガスの女に連れられて、ここへ来たのだ。 翼人たちは、女の意図が分からずに不思議そうな顔をしている。 「この鳥ども、俺たちの村に勝手に入って何様のつもりだ……!」 喧嘩っ早いきこりが一悶着起こそうとしたのを、男がすかさず止めた。 「待ってくれ! 俺たちの話は、この土地に暮らす人間、翼人両方に聞いてもらいたいんだ!」 「落ち着いて、私たちの話を聞いて!」 「どういうことだ……?」 「どうして彼女が、人間などとあんなに親しそうに……」 声をそろえるギラッガスに、事情を知らない人間、翼人双方が疑問を持つ。 この様子を、ミラー、タバサ、シルフィード、それからヨシア、アイーシャは人の輪から 外れたところから見守っていた。ヨシアとアイーシャは固唾を呑んで手を握り合っている。 「率直に言おう。もう争いはやめてくれ! ここにいるみんなは、俺たちに踊らされてたんだ!」 「本当はあなたたちは、争う必要なんてないのよ!」 突然そんなことを言われても、人々は戸惑うばかり。それまで声高々に侵攻、抗戦を唱えていた者が 急に停戦を訴えたら、そうなるだろう。 「踊らされてたって……あんたたちは何者なんだ!?」 サムが問いかけると、ギラッガスの男は重々しくうなずいた。 「俺たちの、真の姿を見てもらえれば、すぐに分かるだろう」 そう言って、男と女は一瞬の内に本当の姿、怪人と羽型生物の正体を晒した! 「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「うわあああああああああああッ!!」 当然沸き上がる悲鳴。人間の何人かは腰を抜かし、翼人たちは開いた口が塞がらない。 「あ、あんた、人間じゃなかったのか!」 「我々の仲間を騙っていたのか! 何ということだ!」 誰かが叫んだ言葉に、怪人と羽、ギラッガスMとFは肯定した。 『そうだ。俺たちは外の世界からやってきた侵略者だ。この村には、争いを扇動し共倒れをさせる 実験のために来たのだ。それぞれが使っていた武器は、外観を変えただけの同じもの。村の繁栄も巣の防衛も、 初めから何もかも嘘だったんだ』 『騙していてごめんなさい。あなたたちをたくさん傷つけてしまったわね。処罰なら、いくらでも受けるわ』 人間も翼人も、明かされた真実に恐慌していた。しかし村人側をなだめたサムが、ギラッガスにこう問い返す。 「あんたたち、何で今更それを俺たちにバラしたんだ?」 ギラッガスは、熱を込めて人間、翼人両方に呼びかけた。 『俺たちはみんなと触れ合う内に、村も森も滅ぼす気がなくなった。そして思った。人間も翼人も、 どちらも素晴らしい種族だ! 争う必要なんて、全くない!』 『むしろ、手と手を取り合って生きていけば、私たちの嘘であった繁栄が、両方にとって真実になる! 私たちはそう確信してるの!』 と訴えられて、人間と翼人は唖然として互いの顔を見合わせた。そんな考え、持ったことなど なかったというように。 『人間は作物などを育てる能力に優れる。翼人は空を飛べ、空の上からいい木を探せる。 お互いにお互いのないものを持っている。それを合わせれば、村も森も、今以上に栄える! 俺たちは見ての通り姿が全く違う生き物だが、力を合わせて二人以上の能力を発揮する 共生を行っている。みんなにも共生は出来るんだ!』 『初めは上手く行かないことも多いでしょう。けれど、必ず分かり合えるわ。この土地には、 もう互いに手を取り合う素敵な二人がいるんだもの』 既にミラーによって、ヨシアとアイーシャが送り出されていた。二人はやや照れながら、 人々の視線を一身に浴びている。 人間も翼人も、ギラッガスの訴えで大きくざわついていた。 「翼人と共生を……そんなこと、考えたこともなかったぞ……」 「人間とともに生きてより繁栄するなど、本当だろうか?」 「でもあいつらが言ったことは、よく考えたらもっともなことだよ」 「言うことに間違いはない。不毛に争うより、ずっといいことではないか」 突然のことに迷いは拭い切れていなかったが、少しずつギラッガスの言葉を認めてくれていた。 ギラッガスはもちろん、ヨシアもアイーシャもそれに表情を輝かせた。 「丸く収まりそう」 「ええ……」 様子を窺っているタバサたちも、心を改めたギラッガスの行いが村を良い方向に進めていきそうに なっているので安心していたが、ミラーは同時に顔を険しくする。 「しかし、問題はここからです。この事態に、黙っていない者がいますよ……!」 それはもちろん、昨晩の発光体だ! 果たして発光体の正体、巨大な皿型の円盤が村の上空に突如として現れ、人々の頭上に影を差した。 「うわぁぁぁぁッ! ありゃあ侵略者のフネだぁ!」 『裏切り者めぇッ! 蛆虫と羽虫どもに寝返るというのなら、この下らん集落と森ごと灰になるがいいわぁーッ!!』 星人の怒声が鳴り響き、円盤の側面の四方に備えられた砲口が火を噴いた! ロケット弾が 村に、家に、森に降りかかり、瞬く間に火災が巻き起こる。人々は当然大絶叫を上げた。 「わぁぁぁぁぁぁぁぁ! た、大変だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」 「いけない! ――むッ!」 ミラーが前に出るが、その瞬間に彼らの元にもロケット弾が発射される。 「危ないッ!」 「うッ!」 「きゅいきゅいー!」 ミラーが咄嗟にタバサを押し倒す形でかばった。近くに着弾したロケット弾の爆風に、 二人とシルフィードは身体を大きく煽られる。 円盤の発射口は、広場に集まっている人たちにも向けられる。 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 『みんな、逃げてくれ!』 悲鳴の合唱を起こす人々に、ギラッガスMが叫んだ。 『この事態は俺たちが招いたものだ。俺たちが始末をつける! 行くぞッ!』 『ええ!』 MとFが光に包まれたかと思うと、一瞬の内に巨大化。そしてMがその身を使って円盤の砲撃からの盾となる。 「ウオォッ!」 「あいつ……俺たちのために、あそこまで……!」 Mが身を盾にしたことで、人々は皆砲撃から守られた。そしてFがその間に飛翔し、円盤に向かって光線を放った。 だが円盤は砲撃を中止して回避行動を取ると、Fの方へ集中砲火を繰り出した。旋回して逃げるFだが、 濃い弾幕の前に瞬く間に追い詰められる。 「ウオォォンッ!」 Fの窮地に、Mが地を蹴って跳び上がる。そしてFはMの背中に張りつき、両者は合体を果たした。 「おぉッ!? 何だあれ、すげぇ!」 合体したギラッガスはロケット弾の雨を突っ切り、両腕と翼からの四条の光線で反撃。 円盤は内一本がかすめ、フラフラと高度を落としていく。 「やったッ!」 悲鳴が歓声に変わるが、それはまだ早かった。円盤は上下、小と大の二機に分離して、 無傷の小円盤がレーザーでギラッガスと撃ち合う隙に、大円盤は野原に不時着して自動修理機能を働かせる。 その間に大円盤からロボットアームが伸び、野原の上にカプセルを設置した。 「ウオォォンッ!?」 速やかに修理を済ますと、小円盤が大円盤とドッキング。飛び上がった円盤は、レーザーを カプセルへと発射した! カプセルは爆破し、中から鳥のようで鳥に似つかない、フクロウの 異形のような大怪物が出現する。 「ギャアアァァァ――――!」 卑劣なるアイロス星人! アイロス星人は離陸すると、円盤とドッグファイトしている ギラッガスに背後から襲い掛かって噛みついた! 「ウオォォォォォッ!」 「あぁッ! 汚ねぇぞ!」 そしてアイロス星人は口から高熱を発し、ギラッガスの翼を焼く。ギラッガスは耐えられず、 野原の上に腹ばいに墜落した。 「ギャアアァァァ――――!」 アイロス星人は口から光弾を連射し、ギラッガスを容赦なく追撃する。更にその上にのしかかり、 彼らを執拗に蹂躙する。 「ウオォォォォ――――――――!」 もがき苦しむギラッガス。彼らは元々ハルケギニアの環境では巨体を長く維持できないことに加え、 アイロス星人の猛攻を前にして息も絶え絶えな状態となっていた。 「や、やめろぉー!」 あまりにむごいアイロス星人の攻撃に、ヨシアが叫んだ。だが当然アイロス星人は止まらず、 それどころか分離した円盤が彼を狙っていた! 「危ない! とぁッ!」 タバサに手を貸しながら起き上がったミラーは、近くに飛び散ったガラスの破片に映った己を見た。 その瞬間に彼はミラーナイトに変身し、飛び出しながら巨大化する! 『はぁッ!』 腕を伸ばし、脚を折りたたんだ姿勢で飛び込んだミラーナイトは着地と同時にディフェンスミラーを展開。 ロケット弾からヨシアや人々を守る。 「あッ! 巨人だ!」 「ミラーナイトだ!」 ミラーナイトはディフェンスミラーで人々の盾となるが、二機の円盤が交互に巧みに砲撃を 仕掛けてくるので、反撃の糸口を掴むことが出来ない。その間にも、ギラッガスは打ちのめされる。 「お姉さま、向こうの二人がピンチなのね!」 タバサを乗せて飛翔したシルフィードが叫ぶが、彼女たちの体躯では巨人同士の戦いに 割って入ることはとても出来ない。ギラッガスはこのままやられてしまうのか!? 『ジャンファイト!』 いや、ヒーローはこの場の者たちだけではない。空を見れば、彼方から紅白の鋼鉄の戦士が こちらへ向かって急行していた! 『ジャンナックル!』 「ギャアアァァァ――――!」 発射された鉄拳が、アイロス星人を殴り飛ばした。ジャンボットだ! ジャンボットがギラッガスの 側に着地し、彼らを助け起こす。 『大丈夫か!』 間一髪間に合ったようで、ギラッガスはふらふらになりながらもうなずいた。しかし、 アイロス星人もまた宙を浮遊しながら舞い戻ってくる。 「ギャアアァァァ――――!」 『ジャンボット!』 『ミラーナイト、村は任せたぞ! 私はこの不埒者を討つ!』 『はい!』 円盤の相手は引き続きミラーナイトに託すと、ジャンボットは空を飛びながら逃げるアイロス星人を追いかけていく。 一方、村の人々にも大きな動きがあった。彼らは村や森を呑み込もうとしている火災に立ち向かおうとしている。 「俺たちもボサッとしてられねぇぞ! みんな、火を消し止めるんだ!」 「しかし、どうやって……。人工の火では、我々は操ることは出来ない」 先住魔法は事前に自然の中の精霊と契約を交わさないと使用できない。また、翼人のそれは エルフなどと比べると幾段か劣る。人為的に起こされた火を操作して鎮火することは出来ないのだった。 しかし村のきこりは、ニヤッと笑った。 「人間の知恵を甘く見るなよ。ついてこい!」 果たして村人たちが翼人を案内した先は、村の共用井戸であった。 「火を消すには水って、相場が決まってらぁ! 総出で掛かれば、こんな火事がなんぼのもんだ!」 「なるほど! すぐに取り掛かろう!」 すべきことが分かると、翼人の行動は早かった。井戸の中の水の精霊と素早く契約し、 地下水を井戸から引っ張り上げて火災を起こしている家屋に浴びせかける。 「はぁ~、やっぱり魔法ってのはすげぇもんだ」 「おーい、この桶にも水を入れてくれ!」 村人たちは役に立たない光線銃を捨てて桶に持ち替え、水を満たしてもらうとバケツリレーで 火を消し止めていく。手が余っている翼人も桶を貸してもらい、空から水を火へ被せる。 「えっほ! えっほ! えっほ!」 「ヨシア!」 「うん! アイーシャ!」 全ての村人、翼人、ヨシアにアイーシャも、協力し合って火災に対応する。タバサも水と氷の魔法で 片っ端から火の手を弱めた。 「騎士さまも手を貸してくださってるぞ!」 「この調子だ! 鎮火はもうすぐだぞー!」 人間、翼人、両方の共同作業により、村と森を焼き尽くそうとしていた火災は完全に消し止められた。 種族に関係なく、人々の間から歓声が沸き上がった。 「やったぁー!!」 一方、全ての元凶であるアイロス星人はジャンボットと、森の中で激しい戦いを演じていた。 アイロス星人が吐き出す光弾の連射を、ジャンボットは肩の盾で防ぐ。 『ビームエメラルド!』 「ギャアアァァァ――――!」 反撃のビームエメラルドを発射したが、アイロス星人は瞬時に翼を閉じて、真剣白刃取りのように光線を受け止めた。 『ジャンミサイル!』 続けてジャンボットはミサイルを乱射。しかし、アイロス星人は翼を閉じた姿勢で高速回転。 その勢いで飛んできたミサイルを全て破壊した。 「ギャアアァァァ――――!」 回転を止めて、翼を開いたアイロス星人は無傷だ。ジャンボットは下手な攻撃は効かないと見て、 腕を下ろしてじっと敵を見据える。 互いに、迂闊な行動を見せない。ジリ、ジリ、とすり足で少しずつ間合いを計りつつ、相手の出方を窺う。 「……ギャアアァァァ――――!」 痺れを切らしたのは、アイロス星人だった。再び光弾の連射を仕掛けたが、ジャンボットは 片膝を突いてしゃがむことで、すれすれで光弾をかわす。 そして相手が防御態勢を取れないところに、ビームエメラルド! 「ギャアアァァァ――――!!」 顔面に必殺技の直撃を食らったアイロス星人は炎上。爆散した。 アイロス星人が倒れても、村を狙う円盤は飛び続けていた。しかしそちらにも、終わりの時は近づいていた。 ミラーナイトはナイフを投げつけながら、密かに鏡を張り巡らせていたのだ。 『そこだッ!』 タイミングを見計らったミラーナイトが何度目かのミラーナイフを放った。円盤二機はさっとかわすが、 空に固定されていた鏡でナイフが反射。 その結果、はね返ってきた光刃は回避できずに円盤は両方とも真っ二つ。粉々に爆発して消滅した。 人間、翼人、そして巨躯の戦士たちが持てる力を合わせたことにより、エギンハイム村も翼人の巣も 破滅を免れることが出来たのであった。 人間と翼人を皆殺しにしようと目論んでいた悪しき侵略者は倒れ、ジャンボットは宇宙へと帰還していった。 ミラーナイトはこっそりとミラーの姿に戻り、タバサの隣に並んだ。 「それじゃあ、人間も翼人も、これからは手に手を取って生きていくんだな」 「みんな無事で……共生することが出来るようになって、本当に良かったわ」 人間と翼人の姿に再変身したギラッガスM、Fは、森の人々の宣言を受けて満足そうにうなずいた。 これまで長い間、同じ土地に暮らしながら互いに理解を示さなかった人間と翼人の両種族。 しかしこれからは、異種族の男女の魂の説得と、一大危機をともに乗り越えたこと、そして両種族の 若いカップルが架け橋となり、共生して繁栄していくことだろう。 「ところで、ギラッガス……さん、でしたっけ。お二人はこれからどうするんですか?」 ヨシアがギラッガスに尋ねかけ、アイーシャがこう申し出る。 「帰る場所がないと言ってましたが、それが本当なら、私たちの本当の仲間になるのはどうでしょうか?」 「え? いいのですか?」 Fが驚いて聞き返す。 「ええ。初めは私たちの敵だったかもしれませんが、今のあなたたちは身を張って私たちを 救ってくれたじゃないですか。それを迎えるのに、問題があるでしょうか。みんなも、そう思うでしょう?」 アイーシャの問いかけに、翼人たちが次々うなずく。 「アイーシャさまのおっしゃる通り。それに、ある意味ではあなたたちが我々と人間の和解の立役者だ。その礼もある」 「これから翼人と一緒に生きてくんだ。もう一人、別の亜人が増えたって同じことだ!」 サムたち村人も歓迎する。それにギラッガスの二人は嬉しそうに微笑んだが、顔を見合わせると、彼らに返答した。 「ありがとう。しかし……俺たちは、元の群れに帰ることにするよ」 「あなたたちを見ていて、考え直したの。私たちもやり直そうって。まだ他人の土地を奪おうと さすらっている群れも正しい方向へ導きたいの。だから、名残惜しいけど、さよならを言わせてもらうわ」 と言うが早いや、ギラッガスは元の姿に変身し、すぐに村から飛び立って大空の彼方を目指す。 「あっ……!」 『皆さん、さようなら! いつまでも助け合って、より良い村を作ってね!』 『俺たちは、この大空の果てから見守っているぞ!』 ギラッガスが大きく手を振りながら、ガリアの大地から遠ざかっていく。 「さよーならー!!」 森の住人たちは、手を振り返してそれを見送った。 「……一件落着ですね」 この明るい未来を示唆する光景を、ミラーたちが温かく見守っていた。 エギンハイム村の事件は綺麗に片づいた。タバサも人々のお礼の言葉を受けながら村を発って、 報告のために王都リュティスを目指す。 「お姉さま、今回はとっても素敵な結末でしたわね! 違う種族で理解し合うなんて、わたしと お姉さまみたい! きゅいきゅい!」 自分の背の上に跨るタバサに上機嫌で話し掛けるシルフィードだが、タバサはもう本に 没頭していて返答しない。それでも構わずシルフィードは話し続ける。 「特にあの人間の男の子と翼人の女の子は、すぐに結婚式を挙げそうなくらい熱々だったのね! お姉さまも誰かと結婚なさればいいのに! ああ、まずは恋人ね! 恋人ってすてき! お姉さまも 早くおつくりになって! 誰がいいかな? でも、トリステイン魔法学院にいる魔法使いたちは みんな気取ってるからシルフィ好きじゃないの。となると誰がいいかなー、うーん……」 一人で盛り上がるシルフィードは頭をひねった末に、何かを思いついた。 「ああ! あの桃色の髪の子が呼び出した、不思議な感じのする平民の男の子! なんか気さくで、 陽気で、シルフィあの人好きよ。お姉さまがはじめてお付き合いをするにはぴったりじゃない? きゅいきゅい! そうと決まったら早速、今度デートに誘いなさい!」 「ばか」 とうとうタバサに頭を小突かれた。 しかし、魔法学院に戻ればシルフィードは楽しくおしゃべりできない。だから文句を言われながらも、 いつまでもいつまでもしゃべり続けていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2914.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ 今日も今日とて患者を探すさすらいのナース由美(女性に年を聞くのはマナー違反だぞ☆) 今回はのっけから宇宙服ひとつで宇宙のどこかに居る患者を探してさまよっているのだ。 (あと何光年ぐらいかはこのままなのだろうか………) OPの長門のポーズよろしくで虚空をさまよっていると、急に二つの閃光が目に入ってきた。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ そんな効果音とともにやってきたのはロボット二体であった。 その姿を遠くで見つけた由美は目を擦りながらゆっくりと起き上がった。 「ははははは! ここなら思う存分勝負が出来るわい」 「望むところ! 今度こそお前を叩き潰す!」 (ロボ………?) すると耳につけていた無線から声が入ってきた。 「アダルト! 今そっちにロボット二体が向かったという情報が入ったわ!」 彼女には良心が具現化したロリ由美というもう一人の由美が存在する。 アダルト由美がさすらっている間彼女に病棟の患者さんの世話をしてもらっているのだ。 「わかった」 短く答えたアダルトは、足裏に付けたブーストを起動させロボ2機の攻撃を食らわない程度に近づいていった。 「うわ、小っさ」 そこらにある隕石よりも小さなソレを見たとき、思わずアダルトは呟いた。 「うおおおおおお!!!!」 先に攻撃を仕掛けたのはタケノヤミカヅチの方だった。一気に間合いをつめて飛び膝蹴りを食らわせにかかる。 「とおっ!」 タケノヤスクナヅチは上空に飛んでこれを回避しすぐさま急降下してタケノヤミカヅチの頭部を狙う。 「うわっ!」 それを手で受けようとしたタケノヤミカヅチであるが、手にかかる衝撃に耐えられず思わず吹き飛ばされてしまう。 「ほれほれ、お主の力はこの程度か?」 そういって悪役っぽく高笑いをするオールド・オスマン 中々型にはまっているのではないかと由美は思った。 「ぐぐぐ…………」 思わず歯噛みをするフーケ。しかし彼女とてただやられているばかりではない。 一旦後ろに引くと素早いスピードでタケノヤスクナヅチの顔面に右ストレートを食らわせた。 「ぐふっ」 タケノヤスクナヅチがひるんだ。その隙を突いてタケノヤミカヅチはここぞとばかりにパンチを繰り出す。 「あたたたたたたた!!!!!!!!!!あたぁ!!!」 そのパンチを食らい続けるタケノヤスクナヅチはみるみるうちに落下していく。この機に乗じてタケノヤミカヅチは一心不乱に拳を叩き込んだ。 「お前はもう…………死んでいる。」 その瞬間、タケノヤスクナヅチが瞬く間に破砕した。 「あっ」 一瞬のタイムラグ。そして――― 「うわあああああああーーーーーー!!!!」 オールド・オスマンは断末魔の叫び声をあげながら大気圏へと落下していく。 由美はそれを遠くから見ているだけであった。あとあくびもした。 そして、今までタケノヤミカヅチの中に居たキュルケがフーケに問いかけた。 「どうしてこんな事を…………?」 「それは………私には大切な人が居るんだ。」 宇宙の果てを見据えながらフーケはそう答える。 「私にはせいぜいこの世界を守ることしか出来ないけれど、守りたい人が居るんだ。 ただ……それだけでいいんだ。」 「守りたい………人」 キュルケは自分にとっての守りたい人を想像してみる。父、母、親友、使い魔……使い魔!? 「あーっ!!!! 私、フレイムの事忘れてた!」 そうなったらいつまでもこんなところにはいられないとキュルケは機内で暴れ始めた。 「ちょっと! あんた達の茶番は済んだでしょ! いい加減早く私を帰しなさいよ!」 「まっ、待て! 今ちょっと私いい事言ったのに、なんでそんな邪魔をするのよ!」 「うるさいわね! あんたなんかがちょっといい事言ったって別に扱いがよくなったりするわけじゃないのよ! 元はといえばあんたはただのコソ泥 「しゃがますね!(やかましい)」 さすらいのナースは数少ない出番を取られてしまう事をとても恐れているのだ。 彼女の一喝に怯みはしたもものすぐに二人は彼女に詰め寄り始めた。 「何だお前は私になんか文句でもあるのかい?」 「そうよ、そうよ。 だいたいなんであんた変な服着てこんなところにいるのよ!」 タケノヤミカヅチが彼女に触れたその瞬間 ざしゅ さすらいのナースに触れる事は死を意味する。 「うわああああああああああああーーーーーーーー!!!!!」 アダルト由美の手刀を食らったタケノヤミカヅチはあっという間に落下していった。 (終わった………) 戦いを終えて少し眠りにつこうかと思っていたアダルトであったが、通信機から何か声がしてくる。 切ってしまおうかと思ったがそんな暇もなく、通信機からかわいい声で怒っている声が聞こえてきた。 「アダルト! もっと空気を読まないと駄目だよ。 いくら初登場で出番が最初だけしかなかったからって 「うるさい」 そう短く通信を切ったアダルト由美はひと時の眠りに落ちた。 心の広い者にさすらいのナースはつとまらない。 それがこの宇宙を旅して得た彼女の出した一つの結論であった。 「………てなことがあってねー」 「………そう。」 タバサはいつもの反応で 「ふーん……よ、良かったね……」 ももえはなぜか目をそらしていて、 「そっ、そうなんだ……ははは………」 ルイズは必死に目の前の現実を受け入れようとして壊れかけていた。 その日の深夜には既に戻ってきていたキュルケの口から聞いた話を聞いた三者の反応はこんな感じでいまいちだったのだ。 まあそんなことはキュルケにどうでもいい。キュルケは使い魔のフレイムと早く戯れたかった。 「おいで、フレイム。」 キュルケが口笛を吹くと、フレイムは御主人様の呼びかけにこたえてこっちによってきた。 キュルケは大きな胸を押し付けながら抱擁する。 「う~ん………♪ よしよしよし………」 サマランダーの着ぐるみを着ていて、キュルケになすがままにされているももえ。とりあえずスキンシップをとることにした。 「ごー」 「とかげはかわいい……。とかげはかわいい………。とかげはかわいい………。」 それを遠くから見守っていたタバサと首の無い火とかげは両手を肩まであげてそれを首と一緒に横に振った。 「だめだこりゃ。」 一人と一匹はその場からさっさと退散したのであった。 「ねえ、キュルケってさ なんかムツ○ロウさんみたいになってきてない?」 「え? 誰のことを言ってるのかしら、モモエ?」 目が既に虚ろになりつつあるキュルケは着ぐるみの頭の部分をなでながらニコニコと笑っていたのであった。 終わりだけどつづく 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6107.html
前ページ次ページゼロの使い魔は魔法使い(童貞) 「あんたわかってるの!? 相手は貴族なのよ、平民が勝てるわけないじゃない!」 「しかし……自分で蒔いた種は自分で摘まねばなりません。どうかわかって下せぇ……」 「あっ、あんたね……」 ルイズは使い魔である彼の強情さにたじたじになってしまう。彼はこう続けた。 「お嬢さん……ここは逃げてください。」 「でも……」 「魔法を使います」 遂にルイズの使い魔である彼の口からその言葉が発せられた。 それを聞いたルイズは彼に言われたとおりの事を行った。 「みんな逃げて!! でないとみんな死んじゃうわよ!!」 そう言ってルイズ達は皆この場から逃げる事にした。そして今、ここにいるのは決闘相手であるギーシュ・ド・グラモンとルイズの使い魔であるエイジだけである。 「そんなに魔法を使うのが嫌なのかね。全くもったいぶりおって……」 エイジの眉がぴくりと動いたがギーシュは気づかずにしゃべり続ける。 「だいたい、君みたいなちょっと魔法が使えるからといってもどうせドットクラスのものだろう、え? 君の魔法を見たら死ぬと聞いたがね……僕に言わせればそんなの井の中の蛙に過ぎないのさ!」 エイジは我慢の限界だった。この魔法を見たら死んでしまうのだ、一刻も猶予が無い。 なぜ自分がこんなところに来てこんなところで魔法を使わねばならぬのか。その答えは誰に聞いても帰ってこなかった。 エイジは傷心旅行の途中、魔法使いギルド聖竜会の会頭の訃報の知らせを受け帰ろうとしたときに列車爆発事故に遭った。 明らかに相手の手先による犯行である。普通であったら死んでいるはずなのだがエイジは気が付いたらこのトリステイン魔法学院の中にいたのである。 目覚めるとそこには桃色がかったブロンドの長髪をした少女がいた。それがルイズである。 そして、今までずっと気絶していたこと。自分は彼女の使い魔になったこと。そしてその時に彼女は自分に契約の儀式と称してキスをしたことを知った。 特に最後の事実については不幸にも記憶が全く無かったらしくあまりの悔しさに男泣きをしてしまい彼女に引かれてしまった。 そして彼について詳しく聞いてみると…… 「えっ? あんたって魔法が使えるの!?」 「お嬢さん、あんまりそのことは言わないで下せぇ……」 エイジは彼女の事を「お嬢さん」と呼んだ。 はじめルイズは「ご主人様」と呼ばせようとしたのだが、「男がご主人様なんて口にするなんてありえねえですぜ!」との猛抗議を受けたためそれは取り止めとなったのだ。 「でも、なんで使い魔のあんたが魔法を使えるのよ! 不公平じゃない!」 「いや、その………自分の魔法は他人が見たら死ぬ危険なものでありやして、あまり人様の前で魔法はちょっと………」 そこまで言うとエイジは口ごもってしまった。ルイズも自分が魔法を使えないから嫉妬していた自分を恥じた。そしてこう約束した。 「わかったわ。そこまで言うんだったら無理に魔法を使えとは言わない。 でもね、もし何か危機があったら魔法でも何でもいいから私のことを守ること。いいわね?」 エイジは固く頷いた。 「さあとっととケリをつけるとするか……行けっ! ワルキューレ!!」 ギーシュが薔薇の花から出した青銅のゴーレムワルキューレを繰り出した。対するエイジは、 「パピコン」 そう言うとどこか魔法少女のようなステッキをどこからともなく取り出し、ワルキューレの攻撃を軽く受け流した。 「何っ!?」 ギーシュの顔が歪む。彼は薔薇の花びらを散らせて六体ものワルキューレを出して一気に襲い掛からせた。 「バカヤロウが………」 命知らずの魔法使いに対してエイジはもはや容赦しなかった。エイジの身体が光りだす。 「死に急ぐんじゃねえ!!!!」 大爆発。六体のゴーレムは四散してしまいあとは裸同然のギーシュだけだった。 「あわわわわ………」 思わず後ずさりするギーシュ。しかし爆風から現れたエイジの姿に愕然とした。 胸元には大きなルビーをつけ、頭にはカチューシャをつけ、足元は短めのガーターベルト……… 一言で表すとメイド服を着た変態がそこにいた。 「ぷっ………ぷぷぷぷぷ……アーハッハッハッハ!!! そんな変な格好うちの学院のメイドでもやらないぞ! アーハッハッハッハ!!!」 ギーシュは思わず笑い転げてしまった。エイジは思わず羞恥のあまり顔を赤らめた。 女であればかなりの萌え要素になるのだろうが男、それも屈強の男がやっていればそれはただの変態なのである。 彼はそのことを十二分に自覚していた。 「俺だってこんな……好きでこんな格好をしてるんじゃねえんだ!!!」 エイジは魂からこの言葉を叫び魔法の呪文を提唱した。 「ロンリー・ラブリー・シンメトリー・プックンジップで・ロリポップ!!」 この間エイジはカメラ目線でウインクしたり指をくわえて少し首をかしげたりしたりして自分なりの萌えるポーズをしているのだがここでは書くに耐えないので割愛する。 「め、目が離せない……!」 しかしその間ギーシュは彼の動きから目を離せなかった。そして…… 「キ、キレイ……だ…」 そういい残したあとまたしても大きな爆発が起きた。 全てのことを終えたことを確認したら余韻に浸るまもなく急いで服を着替えはじめた。 ルイズたちは外れで二度目の大きな爆発を見届けていた。 「どうなってるのかしらね……まあギーシュにあんな魔法使えるわけないし…ってあんたどこ行くのよ!」 「様子を見に行ってくるわ」 ルイズはいてもたってもいられずに広場に向かって走り出した。 (お願いだから………死なないで、エイジ!!) そんなこととは露知らずエイジは急いで着替えをしていた。 「この姿は誰にも見せるわけにはいかねえ……」 エイジはメイド服を手馴れた様子で脱ぎながらそうつぶやいた。そうこの姿だけは…… 「エイジ!?」 エイジは手にカチューシャを握り締めたまま固まった。 「何そのカッコ……?」 突然風が強く吹いた。その風に乗ってどこか消えてしまいたい。とエイジはこのとき強くそう思った。 ギーシュを確認してみると決闘のときの記憶はなくしてはいるもののなんとか一命はとりとめたようだった。 周囲がエイジに畏怖の念を感じているのを軽く受け流し、ルイズとエイジはその場を後にした。 「あの魔法……一体なんだったの?」 誰もいない場所でルイズは彼に聞いた。 「この世界では、火、水、風、土の四系統が存在している……さっきの授業で先生はそう言いやしたですね?」 「ええ、そうよ。あと他に伝説の虚無の系統があるけど……」 「自分がいた世界でも火、水、風、土の四元素というのがありやす。その四つはこの世界と大して違いはありやせん。ただ……」 「ただ……?」 そこでエイジは大きく深呼吸した。ルイズも思わず緊張する。 「お嬢さん……その制服は何で出来てますか?」 「えっ? 制服はただの布だから、水と土じゃ……」 「その通りです。………ではこれもただの布ですがその制服と同じですか?」 そう言って彼はぼろぼろの雑巾を取り出した。 「!」 ルイズは驚愕した。確かに雑巾と制服は同じ布ではあるが全く違うものだ。エイジは更に続けた。 「そして、その雑巾とこの下着………果たして同じですか!?」 そこにはエイジが昨日洗濯したルイズの下着があった。 「………違う! 雑巾と女子の下着は似て異なるもの!! でもその違いって………」 「"萌"です。 向こうの世界での第五の元素……それが萌なんです。」 「萌………っていうかなんであんたが私の下着を持ってるのよ!」 「あっ」 思わずエイジは下着を隠した。が、ルイズにそれを阻止される。 「返しなさい……ってちょっと!なんでこの下着白いどろどろしたのが付いてるのよ!」 「すいやせん、これはちゃんと洗って………」 「いいわよ! これから下着は私が洗うから! このままだと私の下着がなくなっちゃうじゃないのよ!!」 「そこまではやらないですぜお嬢さん……」 そんな二人の様子を遠くから見ていた女性がいた。学院長の秘書を務めるミス・ロングビルである。 「全く………まさか私以外にもいたなんて……厄介なことになりそうね。」 ロングビルはそんな独り言を言い残してその場を後にした。 前ページ次ページゼロの使い魔は魔法使い(童貞)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9096.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十九話「宇宙人連合の罠」 三面怪人ダダ 三面異次元人ギギ 登場 「んんー……ふああーあ」 倒れている春奈を発見し、魔法学院へ連れ帰った翌朝。才人は目を覚まして、ワラの寝床から 身を起こした。 「朝か……。久しぶりのワラの布団は、どうも体が痛いなぁ……」 起床した才人が肩をゴキゴキ鳴らす。最近はルイズのベッドに同伴させてもらっていたが、 春奈をかくまうことにした以上、そうは行かなくなった。急遽ルイズの部屋にもう一つベッドを 入れたのだが、具合の悪い春奈が一つ占領した上、他の女性のいる中でルイズと一緒に寝るのが 忍びなかったので、自主的にワラの寝床に戻ったのだった。 「言ってても仕方ないか……。おーい、ルイズ、春奈。朝だぞー」 立ち上がった才人は、ベッドの上のルイズと春奈に声を掛ける。だが、春奈の方の様子が おかしいのに気づいて、顔を覗き込んだ。 「はぁ……はぁ……」 「春奈!? どうしたんだ!」 春奈の顔色が悪く、息を切らしていた。額に触れると、熱く感じた。 「風邪か!?」 「うッ……お水……」 「あ、ああ、分かった……」 コップに水を注いで飲ませてあげる才人。その間に、ルイズが目を覚まして身体を起こした。 「何? ハルナ、どうしたの?」 「どうも、具合がもっと悪くなってるみたいなんだ。まさか、ルイズの爆発が素人には良くなかったんじゃ……」 「ちょっと! わたしのせいだって言いたいの!?」 一瞬激昂したルイズだが、我に返ると指示を出す。 「とにかく、シエスタを呼んできて。彼女に看護をお願いしましょう」 「あ、あぁ」 才人がすぐにシエスタを呼んでくると、春奈は三人に謝罪する。 「……平賀くん……。ルイズさん、シエスタさん……。ごめんなさい」 「ちょ、ちょっと何謝ってるのよ! しっかりしなさいよ」 「なんだか体がだるくて、力が入らなくって……」 「分かったから、もう話すな」 才人たちが話している間に、ゼロが春奈の容態を診断した。 『どうも、まだ環境の変化に馴染めなくて熱を出したみたいだな。しばらく安静にしてたら 良くなるだろ』 春奈の世話はシエスタに任せることにして、才人とルイズはゼロを密かに話し合う。 『それより問題は、春奈がこんな状態の時に、宇宙人連合の刺客が来ないかってことだ』 「えッ!? 宇宙人が学院に乗り込んでくるかもしれないってこと!?」 『その可能性は十分考えられる。俺たちが春奈をこの場所にかくまってるってことは簡単に 予測がつくだろうし、侵略者ってのはあれくらいで諦める連中じゃない。今日にも、春奈を 奪いに乗り込んでくる恐れがある』 外宇宙からの敵が、学院に侵入する……。それを想像して、才人もルイズも固唾を呑んだ。 『しばらくは学院の中にいても、油断せずに過ごすべきだろう。いいな?』 「あ、あぁ……」 「分かったわ……」 ゼロの警告にうなずく才人とルイズ。と、ルイズが時刻を確認して声を上げた。 「いけない、そろそろ授業に行かないといけない時間だわ」 朝からドタバタしていたので、未だ寝巻き姿である自分に気づいて、急いで支度をする。 着替え終わって、才人とともに本塔に向かう頃には、ギリギリな時間になってしまった。 ルイズと才人が授業へ向かい出した時より少し前の時間帯。魔法学院の本塔には、多くの生徒が 集まっていた。 「おお、モンモランシー! 麗しのモンモランシー! 待っておくれよ!」 ギーシュもその中の一人。今はツカツカと廊下を早足で進むモンモランシーの背中に懸命に 追いすがっている。 「もう知らないッ! ホント馬鹿ッ!」 モンモランシーはギーシュに対しておかんむりで、立ち止まって振り返ろうともせずに歩き続ける。 実はギーシュが下級生を口説いている場面に偶然鉢合わせて、それで嫉妬を爆発させたのだ。といっても、 ルイズじゃないんだから現実に爆発は起こしていない。 「君は誤解をしているんだよ、モンモランシー! ぼくの心の中の一番は君だけなんだよ!」 「わたしがどう誤解してるっていうのよ! ちゃんと聞いたんだからね、口説き文句! それに一番はわたしでも、どうせ二番や三番がいるんでしょう!」 「えッ、えぇっと、それはだね……」 肝心なところで言いよどむので、モンモランシーは呆れ果ててギーシュを置いて行こうとする。 「ま、待ってくれ! 本当に君を愛してるんだ、モンモランシー! 愛してる! 愛してる! ああ、愛してるとも!」 ひたすら「愛してる」を繰り返し唱えるギーシュ。語彙が少ないからだが、モンモランシーは 何度も言われると、悪い気にはならなくなってくる。ギーシュも単純だが、モンモランシーも 案外単純だった。 「……そうね。先日はこっちもやりすぎちゃったし、本当に反省するというんなら、許して あげないことも……」 惚れ薬の一件を省みて、少しは寛大さも見せておこうかとギーシュへ振り返るモンモランシー。 だが、その視線はギーシュではなく、もっと後ろへ引きつけられた。 廊下の奥で、白黒の縞模様の体色をした、能面のような顔つきの怪人がくねくねと怪しい踊りを 踊っているのだ。 「!?」 「モンモランシー? どうかしたのかい?」 目をゴシゴシとこすって見直すと、怪人の姿は忽然と消えていた。幻覚だったのかしら、 疲れてるのかしら……? と自身を疑うモンモランシー。 「ああ、ごめんなさい。何でもないわ。それより何の話だったかしら……」 ギーシュに向き直ると、今度はギーシュの目が自分の背後に釘づけになっていた。それで 後ろを振り向くと、先ほどの怪人が、今度は自分の後方で踊っていた。 「!?」 二人で目をこすると、怪人の姿はまたなくなっていた。 「……す、すまないね。何だかぼく、疲れてるみたいだよ……。一瞬幻覚が見えたんだ……」 「あ、あら、奇遇ね。わたしも何だかおかしなものが見えた気がするわ……」 「君もかい、モンモランシー? それはいけないね。今日は大事を取って、二人で授業を 休むことにするかい?」 渇いた笑い声を上げる二人。そこに、横からモノクロの怪人がぬっと顔を出した。 「ダ―――ダ―――――!」 「……きゃあああああああああああああああッ!?」 途端に絶叫する二人。それでもギーシュは咄嗟にモンモランシーをかばって、杖を抜く。 「ば、化け物! モンモランシーには指一本触れさせないぞ! このギーシュ・ド・グラモンが 相手だ――!」 「ダ―――ダ―――――」 怪人は両手持ちの大型光線銃をどこからともなく取り出すと、ギーシュが呪文を唱える前に 光線を浴びせた。それにより、ギーシュの姿が忽然と消えてしまう。 「ギーシュ!? いやああああああ!」 恐怖に駆られたモンモランシーが走って逃げ出し、階段へ向かう。だが角を曲がった時、 前方から顔の違う白黒の怪人が音もなく現れた。 「ダ―――ダ―――――」 「きゃあああッ!?」 階段を下りるのをやめ、廊下の奥へと逃げていく。だがその先からも、極端に目の小さい、 また違う顔の怪人が現れる。 「ダ―――ダ―――――!」 「いやあああああッ!!」 急停止したモンモランシーに、怪人がギーシュにやったように光線を浴びせた。それで モンモランシーも消え失せてしまった。 「あ……あ……!」 「も、モンモランシーが……!」 その様子を、ちょうど階段を上がってきたモンモランシーたちの同級生のマリコルヌと レイナールが目撃していた。怪人がそちらへ振り向くと、二人は悲鳴を上げて階段を引き返していく。 「うわああああああ! 化け物がモンモランシーを消しちゃったぁ!」 「早く逃げるぞマリコルヌッ!」 怪人とは距離が離れていたので、二人は怪人に追いつかれない。 「ギギギギギギギ!」 だが階段を駆け下りる途中で、進行方向に同じ白黒の縞模様だが、身体つきの異なる別の 怪人が立ちはだかった。青いバツ字型の一つ目をしている。 「うぎゃああああああ! こっちにも!?」 慌てて振り返ると、背後にも、同じ種類で黄色の二つ目と、赤い逆三角形の一つ目の怪人が、 目にも留まらぬ高速の動きで回り込んでマリコルヌたちを囲い込んだ。 「うわああああッ! に、逃げられないッ!」 「ギギッ!」 パニックに陥ったマリコルヌとレイナールに、青い目の怪人が片手持ちの小型光線銃を向け、 レーザーを放った。それを浴びたマリコルヌたちも消え去る。 「ギーッギッギッギッギッギッ!」 三人の怪人は肩を上下に揺らして笑うと、滑るような移動で階段から消え去った。 「ダ―――ダ―――――……!」 追いついてきた最初の顔の怪人も、それを目にして、姿が少しずつ薄れていき、完全に 消えていなくなった。 「……おや? 今日は随分と出席率が悪いですね」 先生のコルベールが教室に入った時には、ルイズと才人も入れて、半数未満の生徒しか 席に着いていなかった。コルベールはすぐにそのことを訝しむ。 「私の授業があまり人気がないのは自覚してますが、ここまで集まりが悪いとは。風邪でも 流行ってるのでしょうか? ミス・ヴァリエール」 「いえ、みんな昨日まで元気にしてたはずですが……」 「何か、朝から学院内が閑散としてましたよ。移動中に、ここで働いてる人も見かけませんでしたし……」 コルベールの質問に、ルイズと才人が答えた。部屋を出てから教室に着くまで、生徒はおろか、 メイドや使用人の平民も全く見かけなかった。それで二人とも、不気味なものを感じていた。 「それは妙ですね……。仕方ありません。授業は中止して、私は校舎を見てきます……」 表情を険しくしたコルベールが踵を返そうとした時、キュルケとタバサの二人が息を切らしながら 教室に飛び込んできた。 「ミスタ・コルベール! 大変です! 学院に侵入者です!」 「な、何ですと!?」 キュルケの報告に、コルベール以下全員が驚愕した。 「見たことのない亜人……恐らく、ウチュウ人が学院の人間を消して回ってるんです! 確かにこの目で見ました!」 「わたしたちは、どうにか逃げてきた……」 と言ったタバサが、目の色を変えてコルベールへ叫んだ。 「危ないッ!」 「ダ―――ダ―――――!」 いつの間にか、教室内に白黒の怪人が忍び込んでいた。タバサの警告のお陰で、コルベールは 横に倒れ込むことで光線をかわすことが出来た。 『あいつは、怪人ダダ!』 一気に教室中が大狂乱になる中、才人の中のゼロが叫んだ。 「うわあああああああ! 逃げろぉー!」 「ギーギギギギギ!」 ほとんどの生徒はキュルケたちのいる側と反対の扉から逃げていこうとしたが、その行く手に 三人の怪人が出現し、レーザーで皆消し去ってしまった。 『異次元人ギギまで! 宇宙人連合の刺客が、もう来やがったか!』 「み、みんなぁッ! おのれ!」 温厚なコルベールが憤怒の表情を見せて杖を取り出したが、そこに怪人ダダが光線銃を向け直す。 「先生、危なーいッ!」 叫ぶ才人。コルベールが向き直った時には、ダダは引き金を引いていた。 ……と、思いきや、その姿勢のままスウッと消えていった。それに合わせて、ギギの三人も 一瞬でいなくなる。 「……あれ? どうしたのかしら?」 「助かった……のかしら?」 怪人たちの不可解な行動に首を傾げるルイズたちだが、すぐに気を取り直して、消された 生徒たちの身を案ずる。 「みんなは! 私の生徒たちはどこへ行ってしまったんだ!?」 「どこにも行ってない。よく見て」 コルベールが血相を抱えると、タバサが生徒たちの消えた箇所にしゃがんで、床を指し示した。 「えッ? どういうこと?」 コルベールやルイズたちが集まって注目すると……とんでもないものを目にした。 「うッ、うわぁー!? 何だこれぇ!」 「ルイズたちがでかい! ……いや、俺たちが小さくなってるのか!?」 「コルベール先生! 助けてー!」 「なッ、何これ!? みんながちっさくなってるわ!?」 生徒たちは全員、豆粒ほどの大きさになって狼狽していた。ルイズたちも目を見張る。 その中で才人は、通信端末からダダとギギの情報を引き出す。 「さっきの光線は、物を小さくする効果があるんだ。さっきの奴ら、学院の人間を小さくして 捕まえてるんだろう」 「状況からして、既に学院のほとんどが捕虜になってる。無事なのは、多分わたしたちくらい」 「むむむ……何ということだ! 早く皆を助けなければ!」 コルベールが使命感に燃えていると、キュルケが一つ問題点を挙げる。 「しかしミスタ・コルベール。どうやって小さくされた人間を元に戻すおつもりですか? そんな魔法、アタシは聞いたこともありませんよ」 「むう……確かにそこが問題だ。何かしらの解除薬が効くとも思えん……」 ハルケギニアの魔法は様々な効果を発揮するが、先住魔法を含めても、物を縮小する魔法なんてものは 存在しない。しかも、ダダとギギの光線銃は魔法ですらないのだ。コルベールたちだけでは、 小さくされてしまった者たちを元に戻すのは無理だろう。ルイズの『ディスペル』も効かないはずだ。 そこでルイズが意見する。 「とにかく、あの宇宙人たちをどうにかして倒すのが最善だと思います。あれほど容易く 人間を小さくできるのなら、万が一の時のために元に戻す方法を用意してるはずですし、 それを吐かせてみるのは如何でしょう」 「あら、たまにはいいこと言うじゃない、ルイズ」 「ひと言余計よ、キュルケ」 キュルケをじっと睨み返したルイズ。コルベールはルイズの意見に賛同する。 「うむ、それしか方法がないな。よし、敵はまだ学院のどこかに潜んでるはずだ。私が探して 皆を元に戻させるから、君たちは避難したまえ。オールド・オスマンは無事かもしれないから、 彼の下へ向かうのがいいだろう」 ルイズたちを逃がそうとするコルベールだが、キュルケは反対した。 「あら、学院に土足で踏み込んだ敵を前に、コソコソしてるだなんて貴族の矜持に反しますわ。 アタシたちも戦いますとも」 「そ、それはいかん……。生徒を危険に晒す訳には……」 「今の状況だと、安全な場所なんてない。むしろ、ひとかたまりになって警戒し合う方が安全」 タバサに言いくるめられて、コルベールはそれ以上言い返せなかった。 「……仕方ない。それでは、みんなで敵を探すとしよう。ただし、くれぐれも無茶はしないこと。 いいね?」 「約束しますわ」 キュルケが非常に気のない返事をした。その一方で、ルイズと才人はゼロと密かに話し合う。 「ゼロ、あの宇宙人たちは、やっぱり……」 『春奈を奪いに放たれた刺客だろうな。直接乗り込んでくるとは、大胆不敵な連中だぜ』 人間を縮小する能力は、捕獲に最適。ダダとギギの目的は、春奈に違いない。彼女が今 無事でいるかは分からないが、早くダダたちを倒した方がいいだろう。 「何の目的があるかは知らないが、執拗に春奈を狙うなんて、許せねえぜ。宇宙人連合なんて、 俺たちでとっちめてやろうぜ、ゼロ」 怒りを浮かべて戦意を燃やす才人の横顔を一瞥して、ルイズは一瞬だけむっとなった。 それからルイズたち生き残りの五人は、物音を立てないように慎重に行動しながら、学院内の 捜索を始めた。タバサの言った通り、既にほとんどの人間がダダたちの餌食になったようで、 どこへ行っても塔内は不気味な静寂に包まれており、人影は存在しなかった。 だが捜索を続けていると、ようやく空き教室の一つから、物音と何者かの気配がした。 コルベールの誘導で、廊下から教室内をそっと覗き込む。 教室の中には果たして、探し求めたダダとギギ三人の姿があった。ダダが自前の光線銃を 机の上に置いて必死にいじっているのを、ギギたちが呆れた様子でながめている。 青い目のギギが、胸に取りつけた小型翻訳機を通してダダに告げる。 『全く、貴様のせいで時間を無駄にした。我らギギ軍人の論理的で完璧な作戦行動の邪魔をした 罪は重いぞ』 するとダダが振り返って、苛立ちまぎれに言い返した。 『さっきからゴチャゴチャとうるさいダダ! しゃべってる暇があるんなら、修理を手伝うダダ! 今回はダダ本部の後援がないから、ミクロ化機はこれ一丁しかないんダダ!』 しかしギギはその訴えを無視して、ぐちぐちとダダをなじる。 『大体、そんな大雑把で不完全な機械を使っているから故障など起こすのだ。これだから 文明の遅れた種族は困る。頭を下げて頼めば、我らの精密で完璧なミクロ化機を 貸してやってもいいのだぞ』 『ダダの星の科学力を愚弄するダダ!? そっちの使ってるのこそ、どうせちょっとしたことで 壊れる欠陥品に決まってるダダ!』 『何! 我らギギの傑作をけなすことは誰であろうと許さんぞ!』 話の内容を聞く限り、先ほどはダダの光線銃が途中で故障したから、やむなく退散したようだ。 ギャアギャア口論するダダとギギをながめて、ルイズが呆れ返る。 「何あれ。あんな連中に学院はやられちゃったの?」 「侵略者なんて、あんなもんだろ。利害関係だけの協力体制だから、仲は悪いんだ」 ダダとギギから目を離すと、彼らの近くの机の上に、水槽のような半透明のケースが置いてあることに 気づいた。そしてその中に、ギーシュやモンモランシーを始め、シュヴルーズら教師に、マルトーら平民らが、 貴賎関係なく閉じ込められていた。どうにかして脱出しようとしていたり、絶望してうなだれていたりする 姿が見える。 「あそこにみんなが! 確かに、もう学院のほとんどが捕まっちゃってるみたい」 「ううむ、許せん! どうにか隙を見て奪い返せないものか……」 キュルケとコルベールが話している脇で、才人はその中に春奈の姿がないかやきもきする。 それを察して、ルイズはますます眉間に皺を寄せた。 ルイズたちが隙を窺っていると、ダダとギギの傍らにある、持ち込んだのであろう小型テレビのような 装置の画面に明かりが点いて、マグマ星人の顔が映った。 「サイト、あいつ、この間の……!」 「やっぱり、宇宙人連合の差し金か……!」 ダダとギギたちがモニターに振り返ると、マグマ星人が口を開く。 『何を遊んでやがる。ダダ274号にギギXY07、並びに08、09。早く任務を遂行しろ』 と命令されると、ダダはこう返答する。 『もう施設内のほとんどの人間は小さくして捕まえてやったダダ。任務完了まで後少しダダ』 『だが肝心の標的を捕まえれてないだろうが。どれだけ人間を捕まえようと、肝心の標的を 捕らえられなかったら意味がねぇんだぞ。お前らがそうしてる間に、逃げられたらどうする』 『それは……』 言いよどむダダを、ギギが鼻で笑う。 『無計画に作戦を進めるからだ。やはり我らギギの頭脳を活かして、施設を余すところなく調べ上げ、 緻密で完璧な計画を立ててから行動するべきだったのだ』 『そんな悠長なことしてたら、日が暮れるダダ! 作戦はダダ時間222以内に完了するべきダダ!』 『ええい! だからお前らで争ってんじゃねぇ!』 すぐに口論になるダダとギギに怒鳴るマグマ星人。だがここで、教室の扉の方へ目をやって 警告を飛ばす。 『むッ! 外に誰かいるぞ! 警戒しろ!』 「まずい、気づかれたわ!」 慌てて退却しようとするルイズたちだったが、既にギギが動いていた。 『貴様はここで捕虜を見張っていろ。我々が一網打尽にする。行くぞ!』 「ギギッ!」 ギギ三人がテレポートして、廊下のルイズたちの前後に出現、取り囲んだ。 「しまった! 囲まれてしまった!」 「だったら、強行突破しかないわね!」 キュルケが好戦的に言うと、五人は銘々の獲物を取り出し、光線銃を向けてくるギギたちを睨み返した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9090.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その二「セーラー服騒動のゼロ」 これは、ルイズが誤って惚れ薬を飲み、才人たちがラグドリアン湖に水の精霊の涙を取りに 行く羽目になったことに至るまでの経緯である……。 ウルトラマンゼロが平賀才人という少年と一体化してから、結構な日にちが経った。ゼロは当初、 才人のことは正直今一つ頼りない、なよなよした少年だと思っていた。もっとも、それも無理からぬ ことだろう。才人は防衛チームの一員でも何でもなく、ずっと平和な社会の中で育った地球人の 普通の少年。これといって強い信念を持っている訳でもない。ハルケギニアに召喚されてから しばらくも、考えなしの行動を取って余計なトラブルを招くこともしばしばだった。 だが今は、評価を180度覆していた。最初のきっかけは、ギーシュとの決闘。その時の彼は、 ルイズの名誉のために最後まで強大な敵に屈することなく戦い続けた。ガンダールヴの力に 助けられることにはなったが、その時の彼は確かに、己自身の力で抗い続けた。よほどの勇気を 心に秘めていなければ出来ないことだ。 そして始まった、怪獣、侵略者の侵攻。次々と休む暇もなく現れる恐ろしい敵の数々にも、 才人は怖気づくことなく、ともに戦ってくれた。ゼロがどんな窮地の中にあっても、何度でも 立ち上がる力を出せたのは、才人の勇気もひと役買っている。 助けられているのは才人だけではない。ゼロも彼に、見えないところで大きく助けられていた。 才人には、深い感謝を抱いている――。 (――はぁ……) のだが、今の状況は、正直頂けなかった。才人が勇敢な、既に立派な自分の仲間であることは 十分に分かっているのだが、この場面を見せられると、その思いに疑念を挟んでしまいそうになる。 人間、いいところばかりではない。あまり贅沢を言ったらいけないのかもしれない。しかしそれでも、 どうにかならないのか。この再発した、才人の「病気」は――。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおオオオオッ! おれッ、サイッコォオオオッ! シエスタも最高ぉおおおおオオオオッ!」 ゼロが隠れてため息を吐いているとも露知らず、才人はもだえくるって奇声を上げていた。 その目の前には、セーラー服を着たシエスタの姿。 今才人は、アウストリの広場で、露店で買い取って改造したセーラー服を、シエスタに 着せている最中だった。セーラー服を着た、ただそれだけのシエスタの姿を見て尋常でなく 狂喜する才人の心理を、ゼロは理解できずに頭を痛めていた。 そうしていると、シエスタの腕輪から、ジャンボットが声を上げた。 『サイト……。一体何をそんなに喜んでいるのだ。これはいわゆる軍服だろう? 戦争の 装束などをわざわざシエスタに着用させて、あまつさえ歓喜するなど……理解不能だ』 「バカ言うなッ!」 がばっとはねおきてジャンボットに詰め寄る才人。結果的にシエスタに詰め寄ることに なったので、シエスタはひっ、とあとじさった。 「こっちのぉおおオオッ! せせ、世界ではぁッ! 確かにそれは水兵服かもしれませンッ! でむぅぉおオッ! ぼくの世界でぇはァアッ! シエスタぐらいの年の女の子はそれ着て 学校に通うッ! 現在進行形で通っているぅううウウウウッ!」 『そ、そうなのか……』 「それはぼくの世界でセーラー服と呼ばれてますッ! 生まれてすいましぇえエエンッ!」 『いや、謝られても……』 異常なハイテンションにドンびきのジャンボットだが、シエスタの方は、自分に故郷の 装いをさせて悦ぶ才人を愛おしく感じて頬を染めた。恋は盲目とはよく言ったものだ。 「最初はサイトさんがおかしくなったと思ったけど……わかりました! どうすれば、もっと 喜んでもらえますか?」 シエスタの申し出で、才人はシエスタの姿を見つめ直して、真剣に、命がけに考えた。 どうすれば今のシエスタがもっと輝けるか! (違うことにその思考力を使えよ……) ゼロが心の中で嘆息した。 そして才人は結論を出した。 「回ってくれ」 「え?」 「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!』って、元気よく俺に言ってくれ」 さすがにひきながらも、言われた通りにするシエスタ。 「お、お待たせっ」 「ちがーうッ!」 「ひっ」 「最後は指立てて、ネ。元気よく。もう一回」 シエスタは頷くと、言われた通りに繰り返した。見ると、才人は泣いていた。 「きき、き、きみの勇気にありがとう」 ジャンボットは理解が追いつかずに、呆然とつぶやく。 『これが地球人の嗜好なのか……? 度し難いな……』 『誤解しないでくれ。全部の地球人がこいつみたいなんじゃないんだよ』 いや、俺も地球のことをよく知ってる訳じゃないけど……と考えるゼロだが、それだけは、 何の確証がなくてもはっきりと言えた。 「次はどうするの?」 「えっと、次は……」 それはともかく、シエスタと才人が話していると、ぎくしゃくした足取りの二人組がこちらに 歩いてきた。ギーシュとマリコルヌ。物陰から覗いていたらしい。 おほん、とギーシュがもったいぶって咳をする。 「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」 ギーシュは何故か泣きそうな顔で怒っている。マリコルヌも、わなわなと震えながら シエスタを指差した。 「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そうだなッ! ギーシュッ!」 「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがないぞッ! のののッ!」 「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」 (こいつらもか……) ゼロは頭が痛くなってきた。 シエスタはギーシュとマリコルヌの様子に身の危険を感じて、仕事を言い訳に走り去っていった。 それをぼーっと見送ったギーシュたちが、才人に問いかける。 「な、なあきみ。あの衣装をどこで買ったんだ?」 「聞いてどうする?」 ギーシュは、はにかんだ笑みを浮かべて言った。 「あ、あの可憐な装いを、プレゼントしたい人物がいるんだ。いつもそばにいて、ぼくを 見つめ続けてくれていた可憐なまなざしを……。あの麗しい金髪を。芳しい、香水のような微笑を……」 才人とゼロは、モンモランシーのことを言っているのだと気づいた。 「ヨリを戻したくなったのか。お前ってほんとうに節操ねえのな」 「きみに言われたくない。さてと、では教えたまえ。どこで売ってた?」 「ふん。お前なんかに芸術がわかるかっつの」 「しかたない。今の出来事をきちんと報告したうえで、ルイズに尋ねてみよう」 「あと二着ある。好きにつかってくれ」 あっさり折れる才人だった。 予備のセーラー服を渡す口約束をしてしまった才人に、ゼロが問いかける。 『才人……お前いいのか? あんなこと言って』 「しかたねえだろ。ルイズにこのこと知られたら、あいつのことだから、何するかわかんないし」 『けど、あいつらが使ってるとこを、ルイズに見られるってことも考えられるぜ』 その可能性に初めて気づいて、うッとうめいた才人だが、思考を楽観的な方向に切り替える。 「なーに、あいつらにも理性ってもんがあるだろ。人前で堂々と楽しもうなんてしないって。きっと」 『だといいんだけどな……』 この時点で、ゼロは悪い予感を抱いていた。 だが翌朝、ギーシュがプレゼントしたセーラー服を、モンモランシーが教室に着てきてしまった。 当然ルイズの目にもつき、それが才人の買ったものだとすぐに気がついた。 「ねえ、あれってあんたが買った服でしょ? どうしてモンモランシーが着てるのよ」 才人はガタガタ震えながら答える。ゼロは今日も頭を痛めた。 「その、えへ、あ、ギーシュがくれって言うから……」 「なんでギーシュにあげたの?」 「え? だって、欲しいって言うから……」 ルイズは、才人の態度に怪しいものを感じた。 「ねえ、なにをわたしに隠してるの?」 「え? ええ? なにも隠してないよ! いやだなあ……」 そんな言い訳では、ルイズの疑念は晴れない。放課後になってもう一度問い詰められそうに なったので、才人は逃げることにした。 「ハトの小次郎に餌やらなくちゃ」 ありえない理由を言い残して、教室から走り去っていく。残されたルイズが、ひと言ツッコミを入れる。 「いつハトなんか飼ったのよ」 『だから言ったのに。とんでもないことになるぞ。やめてくれよ、俺まで巻き込むの』 「うるさいな! とにかく証拠隠滅だ! まだ間に合うッ!」 才人は厨房へと駆けつけると、マルトーらの歓迎をすり抜け、すぐに洗い物中のシエスタに囁きかけた。 「シエスタ、あの例の服を、仕事が終わったら、持ってきてくれないか?」 「え?」 「そうだな……、人目につかないところがいいな……。ヴェストリの広場に、塔に上がる 階段の踊り場があるだろ? あそこに持ってきてくれ」 「は、はい……」 用件だけ伝えると、才人はすぐに立ち去った。その後で、シエスタがうっとりと顔を赤らめた。 「どうしよう。ああ、わたし、奪われちゃうんだわ……」 『サイトがシエスタを奪う? 何を言ってるんだ。サイトは服を返してもらいたいんだろう』 ジャンボットが不思議そうに指摘したが、シエスタはひそひそと否定する。 「違いますよ! 男の人が、人目につかないところに、特別な格好を指定して呼び出すということは、 女の人を頂いちゃうということ以外にありません! 遂に、遂にこの時が来たんだわ……」 『意味がよく分からないが……シエスタ? もう聞いていないか……』 ロボットのジャンボットは、シエスタの言う「奪う」「頂く」の意味もよく理解できなかった。 そしてシエスタが陶酔してしまったので、それ以上呼びかけるのはやめた。 ここで、強引にでも彼女とよく話していれば、この後の惨劇は起こらなかったかもしれないのに……。 待ち合わせの場所にシエスタがやってきた時には、すっかり日が落ちていた。風呂で体を清め、 身支度を整えていたので、時間がかかってしまったのだ。 階段の踊り場には、才人の姿はない。樽が二つばかり置いてあるだけ。シエスタは心配そうに きょろきょろと見回した。 「サイトさん……」 心細げに呟くと、がたん! と音がして、樽の蓋が開き、中から才人が顔を出した。 「シエスタ」 「わ! サイトさん! なぜそんなとこに!」 「いや、いろいろと事情があって……、って、え?」 才人はシエスタの格好を見て、目を丸くした。セーラー服を着用している。 「き、着てきちゃったの?」 「え、ええ……。だって、こっちの格好の方がサイトさん喜ぶと思ったから」 才人は持ってきて、じゃなくて返してくれ、と表現するべきだったと後悔した。ここで 脱げというわけにもいかない。あたふたしていると、シエスタがくるりと回転して、 例のポーズを取った。 「えっと、その……、お、お待たせっ」 がたん! と背後で樽が揺れる音がした。シエスタがきゃっ! と叫んで才人に抱きついた。 樽からは、にゃあにゃあ、と鳴き声がする。 「なんだ、ネコか……」 『お、おい才人……』 才人は安堵するが、ゼロは震えた声を出した。しかし今の才人は、それに取り合っていられなかった。 シエスタの胸が押し付けられている。その感触から、才人の顔が青くなった。 「シ、シエスタって、その……」 「なんでしょう?」 「ブラジャー、つけてないの?」 シエスタはきょとんとした顔になった。 「ブラジャーってなんですか? メイド服のときはシャツの下にドロワーズとコルセットなら つけてますけど……今はなにもつけてません。短いスカートにドロワーズをはくとはみ出ちゃうので……」 ブラジャーが存在しないことと、今のシエスタが下着を着用していないことを知り、才人は 茹でダコのようになった。 『才人ッ!』 ゼロが強く呼びかけるが、その声も耳に届かなくなっていた。 「サイトさんは意地悪だわ……。わたし、貴族のかたみたいにレースの小さな下着なんて 持ってませんもの……。それなのに、こんな、こんな短いスカートをはかせて……」 『おい才人!』 ゼロの声はやはり、シエスタの恥ずかしそうな声にかき消される。 「あ、あの……こ、ここで、ですかっ?」 「え?」 「もう、ちょっと、その、人が来なさそうで、綺麗な場所がいいなあ。あ、でも! これ願望でして! サイトさんがここがいいって言うんなら、ここでも平気よ。ああ、わたし、怖いです。だって初めて なんだもの。母さま許して。わたしここでとうとう奪われちゃうのね」 シエスタは激しく勘違いしているようだ。才人はどうにか本当のところを説明しようと、 考えをめぐらせた。 しかしもう遅かったのだ……。背後で、もう一個の樽の蓋が垂直に跳ね上がった。 「な、なんだぁ!」 振り返った才人が見たのは、樽の中から立ち上がる、ルイズの姿……。その形相……。 『樽の中に、ルイズが隠れてるぞ……』 ようやく、ゼロの声が届いた。 「何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!」 『聞かなかったじゃねぇか……』 ルイズの顔は怒りで青ざめている。目はつりあがり、全身が地震のようにわなないている。 思いっきり震えた声で、ルイズは呟いた。 「随分と素敵なハトを飼ってるのね。へぇ。可憐な装いをプレゼントね。まあいいわ。わたしは優しいから、 そのぐらいのことなら許してあげる。ご主人様をないがしろにして、ハトにプレゼントを贈ろうが、 別にかまわないわ」 「ルイズ、あのね?」 「しかし、そのハトはこう言ったわ。『こんな短いスカートをはかせて』。下着もつけさせずに、 『こんな短いスカートをはかせて』。最高。今世紀最高の冗談ね」 「ルイズ! 聞いて! お願い!」 「安心して。痛くしないから。わたしの『虚無』で、塵一つ残さないようにしてあげる」 ルイズは『始祖の祈祷書』をかまえると、呪文を詠唱し始めた。本気だ。才人は命の危険を感じて、 思わずデルフリンガーを抜いた。シエスタは怖くなって物陰に体を隠した。 「なによあんた。ご主人さまにさからおうと言うの? 面白いじゃないの」 そう呟くルイズが怖い。ワルドより、怪獣より、どんな侵略者よりも、ルイズ怖い。 「相棒、やめとけ」 デルフがつまらなそうに呟いたが、才人は蛮勇を発揮して剣を掲げた。 「きょきょきょ虚無がなんぼのもんじゃあッ! かかってこいやぁッ!」 途中詠唱のままルイズが杖を振り下ろす。ボンッ! と音がして、才人が踊り場から吹き飛び、 下の地面へと叩きつけられる。 才人は立ち上がるなり逃げ出した。踊り場から顔を出したルイズが追いかけ出す。 「待ちなさいよッ!」 才人とルイズがいなくなると、ジャンボットがぼそりと発した。 『有機生命体……。私の頭脳の理解を超えるな……。全く恐ろしい』 ビートスターもかつてはこんな気分だったのだろうか……。いや違うだろうな、絶対……、 なんて思うジャンボットだった。 『才人、これでお別れだな……。まさかこんな別れ方になるなんて、俺も予想もしてなかったぜ』 「不吉なこと言うなぁー!」 ルイズから必死に逃げる才人は、寮塔内をしっちゃかめっちゃかに走り回っていた。恐ろしいことに、 どんなに速く走ってもルイズの気配を振り切ることは出来ない。 このままでは追いつかれる、そんな気がしてならない。そう思ったので、誰の部屋かも確認しないで、 一番近くの扉を開け放って中に飛び込んだ。 中にいたギーシュとモンモランシーが、ワインで乾杯しようとした手を止めて目を丸くした。 ここはモンモランシーの部屋だった。 「なんだ! きみはぁ!」 「かくまってくれ!」 才人はギーシュたちに構わず、モンモランシーのベッドに飛び込んで身を隠した。 『無駄だぜ才人。こんなことしたってルイズは見つけるに決まってる……』 「あ、諦めるかぁー! 俺は一縷の望みに賭けるぞー!」 一縷の望みは儚かった。すぐにルイズが飛び込んできて、才人を見つけてしまった。 「サイト、出てきなさい」 「才人はいません」 せめてもの、無駄な抵抗だった。ルイズはテーブルの上のワインのグラスを取り上げ、 一気に飲み干した。モンモランシーがあっ! と声を上げたが、もう遅かった。 「ぷはー! 走ったら喉がかわいちゃった。それもこれもあんたのせいね。いいわ、こっちから 迎えにいってあげる」 ベッドの上の布団を、ルイズはひっぺがした。ガタガタと震えている才人がそこにいた。 「覚悟しなさい……、んあ?」 しかし、おかしい。才人を目の前にして、怒り狂っているはずのルイズが、いつまで経っても 何もしてこない。才人がいぶかしんで立ち上がると、何とルイズはいきなり泣き出した。 モンモランシーは態度を急変させたルイズを目の当たりにして、頭を抱えた。 「おい、ルイズ……」 声を掛けると、ルイズは才人を見上げ、その胸に取りすがった。 「ばか!」 「え?」 「ばかばか! どうしてわたしを見てくれないのよ! ひどいじゃない! うえ~~~~ん!」 ぽかぽかと才人の胸を叩くと、顔をうずめて大泣きした。 「な、何が起きてるんだ?」 『さぁ……』 ルイズの激しい怒りはどこへ吹っ飛んでしまったのだ。才人は命の無事を喜ぶより、ルイズの 心変わりに戸惑った。それはゼロも同じで、ただただ首を傾げるばかりだった。 こうして才人は、ラグドリアン湖へ赴く原因を作り出し、テペト星人の暗躍やギロン人の 罠に巻き込まれることになったのだった……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9375.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十一話「ファントンの贈り物」 健啖宇宙人ファントン星人 肉食地底怪獣ダイゲルン 登場 「ギャアアァァァッ!」 トリスタニアを囲む平原を横切って、一体の巨大怪獣が王都に接近しつつあった。ずんぐりと していながらどっしりとした肉づきの図体で、大きく裂けてかつ発達した顎には鋭い牙がびっしりと 並んでいる。その上よだれをダラダラと垂れ流していた。 トリスタニア外での迎撃を図って出動した魔法衛士隊の一人が怪獣の恐ろしい形相をひと目見て言った。 「あのトラバサミみたいな顎を見て下さい! あいつ絶対肉食ですよ!」 彼の発言の通り、怪獣の正体は肉食地底怪獣ダイゲルンである。腹を空かせばあらゆる生き物に 関係なく食らいつく、恐ろしく獰猛な怪獣だ。このダイゲルンは、進路上にあるトリスタニアに 暮らす大勢の人間を胃袋の中に入れようと狙っているのだった。 「あんな奴が街に入ったら、どんなことになってしまうか分からん。ここより先には一歩たりとも 通してはならんぞ!」 ド・ゼッサールが全隊員に向けて命じた。ダイゲルンが地響きを鳴らして接近してくると、 作戦の開始を合図する。 「火石爆弾用意! 怪獣に放つのだ!」 命令により、数騎の騎士が肩に筒を担ぎながら、ダイゲルンの左右から向かっていく。 筒の中身は、アカデミーのメイジが生成した合成火石。改造ベムスターに食らわせた特製火石を、 あえて火力を落としたものだ。威力を犠牲にする代わりに量を大幅に増しており、怪獣対策会議で この方が戦術的に有効と判断されて作られることとなった。 筒は魔法学院の教師、コルベールの発案による発射装置。筒の中で圧縮した空気を一気に 解き放つことで、その勢いにより火石を発射する。これにより手で投擲するより断然飛距離が 出せるのだ。原理的には、グレネードランチャーに近いものである。 「撃てーッ!」 ゼッサールの合図により、騎士たちは一斉に火石を発射。ダイゲルンに左右から同時に食らわせた。 「ギャアアァァァッ!」 ダイゲルンの体表の各箇所で爆発が発生。ダイゲルンはバタバタと飛び跳ねて悲鳴を上げる。 「よし、効いてるぞ! 第二陣、攻撃せよ!」 最初の騎士たちが離脱すると、次の筒を担いだ騎士たちが交代してダイゲルンに向かっていく。 ダイゲルンは騎士たちを敵と見なして反撃しようとするも、見た目通りに鈍重なダイゲルンの吐く 火炎はグリフォンには当たらない。騎士たちは対怪獣戦のために散々訓練しているのだ。 「ギャアアァァァッ!」 ダイゲルンは連続で爆撃を食らい、ジタバタともがく。 「いいぞ! ではそろそろキング砲を……」 ゼッサールがとどめの攻撃を指示しようとしたが、それより早くダイゲルンに動きが見られた。 「ギャアアァァァッ!」 その場で踵を返すと、地面に飛び込むように倒れ、長い爪で土を掘り返していく。そうして あっという間に地中に逃げていった。 ダイゲルンは地底怪獣らしく、地上での動きは遅くとも地中の潜行速度はかなりのものなのであった。 「逃げられたのは残念ですが、防衛には成功しましたね! この戦果には女王陛下にもお喜び いただけるでしょう」 騎士の一人が気を良くしてゼッサールに言ったが、ゼッサールは油断していなかった。 「いや、腹を空かせた肉食獣がそうそう簡単にあきらめるとは思えん。またトリスタニアを 狙って現れることだろう。皆の衆、しばらくは警戒を怠るな!」 ゼッサールの命により、魔法衛士隊はトリスタニア周辺を周回飛行し、ダイゲルン接近の 兆候を見逃さないように警戒を続けた。 ところ変わって、リュリュとグルメンの実験農場のテント。リュリュが昼食の準備をしている間、 ベアトリスたちはあるものを発見していた。 「あら? 何かしら、これ」 見たことのないような異様な物体が、ガラスケースの中に収められて飾られている。赤紫の歪な 球体から突起が生えている、何かの球根に見えなくもない物体だった。 「これも食材の一種なのかしら」 「まさか。とても美味しそうには見えません、殿下」 「削って粉にする調味料ではないでしょうか」 「いえ、新種の肥料ではないかしら」 ベアトリスたちが推理し合っていると、通りかかったリュリュが正解を言った。 「あッ、それはシーピン929と言います。博士の故郷で作られた非常糧食だそうです」 「ええ? これ、ほんとに食べ物だったの?」 シーピン929なる物体をもう一度観察するベアトリス。 「わたしたちの感覚からだと見た目にちょっと難ありですが、博士の故郷の食料不足が深刻化 した時、これでしのいだそうです」 「こんな小さいので?」 シーピン929は小柄なベアトリスでも持ち上げられる程度の大きさだ。 「とてもたくさんの人のお腹を満たせるとは思えないわ。それともいっぱいあるのかしら」 「ああ、それは……」 リュリュが答える前に、ツインテール娘が何の気なしにガラスケースをカパッと開けた。 「わたしたちの舌にも合うのかしら、これ」 「あぁぁぁッ!? 開けちゃダメですッ!」 「へ?」 突然大声を出すリュリュ。何事かとベアトリスたちが思う間もなく……。 シーピン929はずもももも……と膨張を始めてみるみる内に大きくなっていく! 「きゃあああああああああッ!? どうなってるのこれぇぇぇぇ―――――――!?」 思わず絶叫するベアトリスたち。シーピン929は瞬く間に彼女たちの背丈も超えて、どんどん 膨れ上がっていく。 ベアトリスたちはたまらず回れ右した。 「いやあああぁぁぁぁぁッ! 押し潰されるぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」 「ひ、姫殿下ぁぁぁぁッ! お助けをぉぉぉぉぉ――――――――――ッ!」 「あぁッ! エーコが逃げ遅れた!」 「博士ぇーッ! 助けて下さい、博士ぇぇぇーッ!」 テント内はたちまち大パニック。リュリュは必死になってグルメンを呼んだ。 肥大化したシーピン929はグルメンの手によって元の大きさにまで圧縮された。 「なるほど……。大きくなるって訳ね……」 「はい……。説明が遅れて申し訳ありません」 「いえ、勝手に触ったこっちが悪かったわ……」 食事を取りながら、ベアトリスとリュリュは互いに謝り合う。 「放っておいたら際限なく大きくなってしまいますので、取り扱いにはくれぐれもお気を つけて下さいね」 「もう触らないわよ……。それより」 ベアトリスが気を取り直して、皿に盛られた肉料理に目を落とした。リュリュの代用肉で 作られた料理だ。 「これ、ほんとに美味しいわね! 確かに味も本物そっくりで、言われなければ全然気づけないわ!」 「噂は本当でしたね、殿下!」 「お気に召していただけて、ありがとうございます! 料理と食品加工だけは誰にも負けないと 自信があるんですよ!」 さすが料理を生業としているだけあり、美味しいと評価されたリュリュは心の底から嬉しそうであった。 ここでポニーテール娘が言う。 「味ももちろんですが、匂いもまた美味しそうな匂いがしますね。それが味をより一段と引き上げてます」 「あッ、気づかれましたか?」 料理のことになるとちょっと得意げになるリュリュ。 「美食とは舌だけで味わうものではありません。見た目、匂い、噛みごたえなど五感全部が そろって本当に美味しいものが出来上がるのです。そのため、わたしも味の再現だけで満足 せずに研究を重ねて、匂いも本物と限りなく同じになるように仕上がるようにしたんです」 「さすが、こだわってるのね」 リュリュの口振りの熱さから、彼女がこの道に命懸けであることをベアトリスたちはしみじみと感じた。 と、ここで緑髪娘が話題を変えた。 「ところで……そこの博士、貴族が食事をしている場所でぐうすかお眠りなんて、少々失礼では ないでしょうか?」 『うーん、もう食べられへんわぁ……』 彼女たちの後ろでは、先に食事を終えたグルメンが横になって寝言を唱えていた。 やや眉をひそめるベアトリスたちに、リュリュが弁明。 「どうぞご容赦お願いします。あれは博士の民族の風習だそうで」 「風習?」 「はい。博士の民族では食事とは何物にも代えがたいほど神聖なもので、自らが食べた命に感謝し、 摂取した栄養を可能な限り吸収するため、食事後に眠って消化を促すということなんです」 「へぇ。食事が神聖なものねぇ」 関心を寄せるベアトリスたち。言われてみれば、食べるという行為は他の生き物の命を 自分のものとすること。確かに神聖な領域と言える。 普段当たり前のようにものを食べられるので意識していないが、始祖ブリミルの教えにも 食事に感謝をすることとある。それを久々に思い出したベアトリスたちだった。 「それにしても、一人ですごい量を食べたものね」 ベアトリスはグルメンの食事の跡に目を向ける。皿がまさしく山積みになっており、一人で 学院の生徒総数分と同じ量を食べたのではないかと感じてしまうほどだ。 「一度にあんなに食べるんだったら、慢性的な食料不足というのもうなずける話ね」 「あッ、それ、わたしもいつも思ってます」 ほのぼのと談笑するベアトリスとリュリュたち。だがその時! ゴゴゴゴゴゴ……! 「な、何!?」 いきなりテントが激しい揺れに襲われ、ベアトリスたちはギョッと驚いた。 揺れとともに、外から何か異様な騒音が発生する。 「外で何か起きてるみたいです!」 「一体どうしたのかしら……!?」 ベアトリスたちは急いでテントの外に出ると、そこの光景に仰天した。 「な、何あれぇ!?」 何と地表に巨大なヒレのようなものが突き出ていて、しかも地面を割りながら移動しているのだ。 当然、ベアトリスたちはこんな異常なものは見たことがなかった。 「地上に、サメ!?」 「い、いえ! あれは……!」 地面の裂け目が広がり、ヒレの下から更に巨大なものがせり上がってきた。 「ギャアアァァァッ!」 正体は怪獣ダイゲルンであった! 「怪獣だわぁぁぁぁぁッ!?」 悲鳴を上げるベアトリスたち。しかしトリスタニアを襲おうとしていたダイゲルンが、 何故ガリアとの国境付近にいるのか? ダイゲルンは本物のサメよろしく嗅覚が鋭敏で、地上の生物の匂いを嗅ぎ分けて地中から接近する。 そしてリュリュの代用肉が匂いにまでこだわられていることが災いして、ダイゲルンはこっちに 引き寄せられてしまったのだ! 「ギャアアァァァッ!」 地上に巨体を現したダイゲルンはテントの方角、つまりベアトリスたちへと向けてまっすぐに 進み始めた。ベアトリスたちは生命の危機を感じて震え上がった。 「は、早く逃げましょう!」 「はいッ!」 ベアトリスは取り巻き娘たちを引き連れてこの場から離れようとするが……リュリュだけが 戸惑っていて立ちすくんでいる。 「どうしたのよ! 早くしないと食べられちゃうわよ!」 ベアトリスは慌てて彼女を引っ張っていこうとするが、リュリュは困惑しながら言った。 「でも、このテントの農場にはわたしの夢と目標が詰まってるんです! それを捨てて逃げるなんて……」 するとベアトリスがリュリュを説得する。 「あなたが生きてれば農場はまた作れるけど、他の人間には作れないでしょ!? だから あなたは生き延びないと駄目よ! 分かる!?」 ベアトリスの必死の言葉はリュリュの心に響き、彼女はうなずいた。 「は、はい!」 「結構! それじゃあ避難よ!」 リュリュも連れてテントから離れ出す五人。 だがしかし、逃走の途中でリュリュが急に立ち止まった。 「あぁぁッ! いけない!」 「今度はどうしたの!?」 「博士を置いてきました!」 「……あッ!」 グルメンがいないことを思い出すベアトリスたち。当のグルメンは、未だに寝こけていたままだった! このままではグルメンの命がない! 「博士ぇぇぇぇぇぇぇッ!」 リュリュが慌てて引き返そうとするも、ダイゲルンは既にテントの目前。どう考えても 間に合わない! 「あぁッ! 誰か博士を助けて下さぁぁいッ!」 絶叫するリュリュ。 その願いに応えるように、空の彼方からグレンファイヤーが飛んできた! 『ファイヤァァァァァァ―――――――――ッ!』 「ギャアアァァァッ!」 グレンファイヤーはテントの前に着地すると同時にダイゲルンに組みつき、侵攻を食い止めた。 「あれは、ウルティメイトフォースゼロ!」 『うおおおおおおおッ!』 グレンファイヤーは上腕の筋肉をもりもり盛り上がらせて、ダイゲルンを押し返していった。 それによりリュリュたちはテントまで引き返すことが出来た。 「今の内に博士をッ!」 グルメンはこの状況に至っても目を覚まさないので、リュリュたちは仕方なくレビテーションで 運んでいった。 少女たちが避難していく中、グレンファイヤーは抑えつけているダイゲルンと本格的な戦闘を始める。 『うらぁッ!』 四つを組んだままダイゲルンの脇腹を狙って蹴りを仕掛け、一瞬ひるませた隙を突いて 高々と持ち上げ、投げ飛ばした。 『どっせいッ!』 「ギャアアァァァッ!」 固い地面に叩きつけられたダイゲルンだが、まるでへっちゃらとばかりに即座に起き上がると、 姿勢を低くしてグレンファイヤー目掛け突進していく。 『うおぉぉッ!』 ダイゲルンの頭突き攻撃に、グレンファイヤーははね飛ばされてしまう。 『ぐッ、なかなかいいパワーじゃねぇか……!』 ダイゲルンは見た目通りのパワー型怪獣。八方からすさまじい圧力が掛かる地中深くの 環境に耐えられるよう進化した強固なボディから生じる筋力は、グレンファイヤーにも 劣らないレベルであった。 『けどパワー勝負じゃ俺は負けねぇぜ! うおおおおおッ!』 「ギャアアァァァッ!」 グレンファイヤーはダイゲルンに再度飛びかかってボディブローをぶち込んだ。が、ダイゲルンに 効果は薄いようだ。 「ギャアアァァァッ!」 ダイゲルンは反撃としてグレンファイヤーの身体を蹴り上げる。 『ぐおぅッ!』 うめくグレンファイヤーだが、もう一度拳打を繰り出す。今度は顔面を狙って。 「ギャアアァァァッ!」 だがその拳はダイゲルンに噛みつかれて止められた! 『何ッ!?』 顎の力はダイゲルンの筋力の中で最も強く、グレンファイヤーの手首がギリギリ締め上げられる。 『うぐあぁぁぁぁぁッ!?』 たまらず苦悶の声を発するグレンファイヤー。しかも顎の力だけで身体全体を持ち上げられ、 何度も地面に叩きつけられる。 『うおあああぁぁッ! ぐッ! ぐっはぁッ!』 このままではグレンファイヤーが危ない! しかし、グレンファイヤーは参らなかった。 『こんの食いしん坊野郎が! 俺の炎でも食らいやがれぇぇぇッ!』 胸のファイヤーコアを滾らせると、腕に炎を宿らせて拳を急激に熱していく。 「ギャアアァァァッ!?」 口内を熱せられたダイゲルンはたまらず顎を開いた。 『よぉっしゃあ今だぁぁぁッ!』 この隙を突いて、グレンファイヤーは大技を仕掛ける。 素早くダイゲルンの背後に回り込むと、後ろから相手の身体を抱え上げ、上下逆さにして まっすぐ叩き落とした! 『グレンドライバーだぁぁぁぁぁぁッ!!』 この攻撃が決まり、ダイゲルンは一気に爆散! 『よぉしッ……! やったぜ!』 怪獣を倒し、ベアトリスたちの無事を確認したグレンファイヤーはうなずき、空に飛び上がって 帰還していった。 『いやぁ、お嬢ちゃんたちには助けられてもうたみたいで。迷惑掛けてすまんかったなぁ』 戦いが終わってからやっと目を覚ましたグルメンは、ベアトリスたちに感謝の意を示した。 「ホントにね。一時はもう駄目かと思ったわよ」 『いやぁすまへんすまへん。これはお詫びと感謝の品や。受け取っておくんなまし』 グルメンはリボンで包装された箱をベアトリスに差し出す。 「これは?」 『特別の、とっておきの品やで。みんなで食べてや』 中身は見えないが、グルメンがこう言うからにはとてもいいものなのだろう。ベアトリスは ありがたく受け取った。 「さて、そろそろお暇するわね。今日は色々と勉強できて、来てよかったわ。ありがとう」 帰り際にリュリュと握手するベアトリス。 「こちらこそ、わたしの活動の内容を知っていただけて嬉しいです。またいつでも遊びに 来て下さい。他の学院のお友達をお連れになっても構いません」 「友達……そうね。次に来る時は、素敵な子を連れてくるわ」 ベアトリスの脳裏にティファニアの顔がよぎり、口元に微笑が浮かんだ。 「……ということがあったの」 翌日の学院の教室で、ベアトリスは一連の出来事をティファニアに話していた。ティファニアは 奇想天外な話の連続にいたく感心したようであった。 「そんなことがあったのね……。危ない目にも遭ったみたいだけど、皆が無事で安心した」 「ありがとう。どう? 今の話面白かった?」 「うん、とっても! 世界にはほんとに、わたしの想像を超えるような人がいたと知って ビックリしたわ。一緒にいるウチュウ人の方とも、是非お会いしてみたい!」 ティファニアが関心を持ってくれて、ベアトリスはほっとするとともに嬉しく感じた。 「ええ、ティファニアが良ければ連れていってあげるわ。だから……その……」 ベアトリスは少しもじもじとしながらも、意を決してティファニアに告げた。 「この前のこと、ちゃんと謝ってなかったわね……。ご、ごめんなさい……。それで、こんな わたしでいいのなら……あなたの、お友達になるわ……いえ、させてちょうだい……」 恐る恐る申し出ると……ティファニアはにっこりと笑った。 「うん、ありがとう! そのお返事、ずっと待ってたの」 ティファニアからの返答に、ベアトリスは表情を輝かせた。そんな彼女の様子に、取り巻き 娘たちも安堵してにこにこする。 正式にティファニアと友達になれたベアトリスは、グルメンからの贈り物を彼女に差し出した。 「それで、これはお土産。お友達のあなたに一番に味わってもらいたくて」 「まぁ、食べ物なのね」 「そうみたい。わたしもまだ中身を知らないんだけど、とっておきのものって言ってたから きっとすごく美味しいものよ」 ベアトリスはここで初めて包みを解いて、中身をティファニアに披露する。 が……包装の下から現れたモノに、一瞬言葉を失った。 「……」 包みから出てきたのは……ガラスケースに収められた、シーピン929だった。 「――食べられるかぁッ!」 ベアトリスは思わず床に叩きつけた。パリンとケースが割れる。 「で、殿下ッ! そんなことしたらッ!!」 「あぁッしまったッ!」 ずもももも……とシーピン929は膨張を開始。 「きゃああぁぁぁぁぁ―――――――――――! やってしまったわぁぁぁぁッ!」 「た、助けてぇぇぇぇぇぇッ!」 「せ、先生呼んできてぇぇぇッ!」 情けない悲鳴を上げるベアトリスたち。ティファニアは目を白黒させた。 教室いっぱいにまで膨れ上がったシーピン929は教師陣総出で処分され、ベアトリスたちは こっぴどく怒られる羽目になったのであった。 しかしこの珍騒動が逆にプラスに働いて、他の生徒たちもベアトリスに気さくに接する ようになり、ベアトリスは学院の輪の中に自然と溶け込めるようになったのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔